今年、開催された第72回毎日書道展の様子=東京都港区の国立新美術館で2021年7月8日、内藤絵美撮影

 文化審議会は15日、「書道」と「伝統的酒造り」を登録無形文化財にするよう末松信介文部科学相に答申した。6月施行の改正文化財保護法で無形文化財にも、既存の指定制度より基準が緩やかな登録制度が設けられ、初の登録となる。

 技術継承に取り組む保持団体には、それぞれ「日本書道文化協会」(東京都港区)と「日本の伝統的なこうじ菌を使った酒造り技術の保存会」(同)を認定する。いずれも国連教育科学文化機関(ユネスコ)無形文化遺産登録を目指している。

 書道は漢字の伝来や仮名の発展とともに、伝統的な書法が確立した。鑑賞対象であるとともに、文字を学ぶ手本として庶民の生活にも浸透し、芸術性だけでなく生活文化の歴史の上でも価値が高いと評価された。

 伝統的酒造りは、日本酒や焼酎、泡盛、みりんなどに使われるこうじ造りや発酵が主な技術。伝統的に培われてきた手作業が対象で、古くから日本に根差した食文化として重要とされた。

 近く答申通り告示され、登録されると技術継承などの活動に国の財政支援を受けられる。改正法では無形民俗文化財も登録制度の対象となり、高知県の「土佐節の製造技術」など2件が9月に登録された。

昭和の鉄道気動車も重文に

 文化審議会は15日、昭和の鉄道車両「キハ四二〇五五号気動車」など7件を重要文化財に指定するよう末松信介文部科学相に答申した。近く答申通り指定され、美術工芸品の重要文化財は1万820件(うち国宝902件)となる。

 気動車は1937年に製造され、昭和の戦前期に流行した流線型の車体が特徴。69年まで運行され、現在はJR九州が保管。現存する昭和初期の旅客車として重要と評価された。30年に製造された鉄道省(当時)直営初の乗り合いバス車両でJR東海が所有する「鉄道省営乗合自動車」や、愛知県犬山市の博物館明治村に残り、上下水道など生活基盤の充実に貢献した「ゐのくち渦巻ポンプ」も指定される。

 文化審はこのほか、多賀城跡(宮城県多賀城市)から大量に見つかった奈良〜平安時代の漆紙文書や百済寺(ひゃくさいじ)(滋賀県東近江市)の木造十一面観音立像、西大寺(奈良市)の木造弥勒(みろく)菩薩(ぼさつ)坐像(ざぞう)、石手寺(松山市)の木造金剛力士立像の指定も求めた。

■解説

 書道が無形文化財に登録されることは、筆が実用の文房具として生活に根付いていた時代が過ぎ去り、書道人口が減少していると指摘される状況の中で、書道の普及に取り組んでいる人々にとっては朗報だろう。日本の書家たちも、書道の普及に役立てようと、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産登録を目指し、2015年に日本書道ユネスコ登録推進協議会を発足させ、21年8月には日本書道文化協会を設立するなど働き掛けを加速させてきた。

 しかし、新型コロナウイルス禍で、書の展覧会の開催が困難となり、文房四宝(筆・墨・硯<すずり>・紙)の製造者や、対面での指導を主としてきた書を教える人たちの苦境が続いている。昨年、開催を見送った毎日書道展などの書展は今年から再開されたが、支援の輪はぜひ広がっていってほしい。

 日本の現代書は独自の表現を生み出し、世界でもその多彩さが注目されている。今回の登録を機に、日本の生活文化の粋として脈々と伝えられてきた書の魅力が再確認され、新たな花を咲かせることを期待したい。

2021年10月16日 毎日新聞・東京朝刊 掲載

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