《自在掛 大黒》北陸地方 江戸時代 19世紀 日本民藝館

 「民藝運動」を指導した柳宗悦(やなぎむねよし)(1889~1961)の没後60年を記念した「民藝の100年」展(同館や毎日新聞社など主催)が26日から、千代田区北の丸公園3の東京国立近代美術館で開かれる。「民藝」という言葉が生まれて約100年となるタイミングでの大型企画で、展示品は450点を超える。展覧会を担当する同館の花井久穂・主任研究員に見どころや注目作品を聞いた。

見どころと注目作品

花井久穂・主任研究員

 展覧会の企画趣旨を教えてください。

 柳らが進めた民藝運動は、日常の生活道具に潜む美を見いだすことから始まりました。過去の生活雑器を集めるだけではなく、近代化の中で失われつつあった手仕事を残そうと、地方の工人たちと共に、時代に合ったものづくりの仕組みを考えました。今回は、柳らが「民藝」という言葉を生み出してから約100年になることから、収集・出版・生産から流通に及ぶ活動の実相を総覧できるよう、時間軸で「6章」に分けて紹介しています。

 「ローカルであり、モダンである。」という展覧会のキャッチフレーズには、どんな意味が込められていますか。

 柳らは、フランスの著名な彫刻家・ロダンと直接文通するなど、リアルタイムで西洋の文化を摂取できた世代です。彼らは「近代(モダン)」が何たるかを知ったうえで、日本の土着的な生活道具をポジティブに見直していきました。土地に根ざした「前近代」の手仕事に光を当てたのですが、それを広めるには「美術館」「出版」「セレクトショップ」という、きわめて「近代的」な手法を駆使しています。

 あえて、おすすめの作品をいくつか教えてください。

 一つ目は、江戸時代に大津(滋賀県)で旅の土産物として売られていた「大津絵」を柳が丹波布で表具を仕立てた作品があります。丹波布とは、兵庫県で生産され、主に京阪地方で布団地に使われていた素朴な草木染の手織物です。安価で庶民的なもの同士の組み合わせながら、とても洗練されたお洒落(しゃれ)な軸に仕上がっています。

《大津絵 長刀弁慶》 江戸時代 17世紀後半~18世紀前半 日本民藝館

 次に、かつて田舎の民家の炉端で使われた「自在掛(じざいかけ)」。鍋を釣るための民具ですが、住まいの近代化に従って使い道がなくなりました。しかし、これを造形物として見直すと、不思議な魅力と圧倒的な存在感があります。

 もう1点、藁沓(わらぐつ)です。雪国の手仕事を評価した柳らは、この藁沓を室内履きのスリッパにアレンジするなど、都市の人々の需要に合ったものづくりを提案しています。

《藁沓》山形県 1940年頃 日本民藝館

 いずれも前近代の「技の生態系」を〝生きた形〟で残そうとする民藝の考え方で選ばれたもの。必ずしも「原形(オリジナル)」には固執しない文化財の守り方といえるでしょう。

 コロナ禍での展覧会ということで予防対策を講じていますので、ぜひご観覧ください。

INFORMATION

メモ

展覧会は26日から、来年2月13日まで。月曜(1月10日は開館)と年末年始、1月11日は休館。入館は午前10時~午後4時半(金土曜は午後7時半まで)。観覧料は一般1800円、大学生1200円、高校生700円。中学生以下、障害者手帳提示の方とその付添者1人は無料。展覧会の問い合わせはハローダイヤル(050・5541・8600)。

2021年10月16日 毎日新聞・都内版 掲載

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