近代日本の始まりを告げた明治。西洋諸国からたくさんの人やモノが入ってきたこの時代、国内外の画家たちは失われゆく日本の風景や風俗を盛んに描いた。そんな絵画を通して明治を旅する展覧会「発見された日本の風景 美しかりし明治への旅」が7日、京都国立近代美術館(京都市左京区)で開幕する。一人のコレクターが海外で発見、収集した水彩画・油彩画約240点を展示。ほとんどが初公開という明治絵画コレクションは、懐かしくも新鮮な列島の姿をありありと伝える。
報道画家に探検家、研究者。明治期に西洋から訪れた人たちの来日目的はさまざまだ。西洋とは異なる日本の文化や自然に興味を抱いた彼、彼女らは、新しいまなざしと西洋式の画法でそれらを丹念に記録し、故郷への土産とした。一方、西洋の目と技術を学び、自国の風土を見つめ直した日本人画家たちは、外国人に見せたい国内の風景や風俗を描いては土産物として売り、あるいは留学先で販売して資金にした。本展ではこうして諸外国へ渡り、愛好されてきた総勢約70人による作品をまとめて紹介する。
4章構成の序章では、旅支度として、明治初期~中期の日本洋画史の流れを大まかにたどる。ドイツ人医師の下で解剖図を描きながら油絵を学んだ田村宗立(そうりゅう)から、やがて日本の洋画界を主導する黒田清輝まで、巨匠たちの作品を眺めた後、第1章「明治の日本を行く」がいよいよ始まる。
明治後期、水彩画と風景画の一大ブームが起きた。きっかけを作ったのは英国人の水彩画家たちだった。多大な影響を与えた画家の一人、アルフレッド・パーソンズは、西洋からの旅行者の聖地だった富士山や日光を旅し、何気ない風景をいきいきと表現した。「豪華な社寺や雄大な自然だけでなく、旅館の庭や農園に咲く花など、日本では当たり前の風景が外からの目によって再発見された」と京都国立近代美術館の梶岡秀一主任研究員。日本の庭園に魅せられた女性画家エラ・デュ・ケインの水彩画もそうした新鮮な「目」を伝える。報道画家チャールズ・ワーグマンが旅先で庶民の姿を活写した作品群、そして彼に学んだ五姓田(ごせだ)義松による天皇巡行の記録画もこの章の見どころだ。
続く第2章では、和傘を差す男女など日本の風俗を描いた絵を紹介。中でも来日画家たちが好んだ画題が、子守をする子どもだ。明治以降、日本人画家も頻繁に描くようになったこのモチーフは「外からの目で発見されたのかもしれません」と梶岡主任研究員。横浜を拠点にした笠木治郎吉は水彩に膠(にかわ)を重ねる独自の手法で、農家や漁家の人々を情感豊かに描いた。長く忘れられた存在だったが、古典主義への憧れを思わせる重厚な肉体表現は視線を強く引きつける。
旅の終わりを告げる第3章は、花のある風景画が集まる。園芸趣味が盛んだった当時の日本ならではの景色。吉田博、大下藤次郎といった今なお人気の画家たちの水彩画も会場を彩る。
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会期 2021年9月7日(火)~10月31日(日)。月曜休館(ただし9月20日は開館し、翌21日休館)。入場は午前9時半~午後4時半(金・土曜は午後7時半まで)
会場 京都国立近代美術館(京都市左京区岡崎円勝寺町、075・761・4111)
観覧料 一般1200(1000)円▽大学生500(400)円▽高校生以下・18歳未満無料。カッコ内は20人以上の団体料金
主催 京都国立近代美術館、毎日新聞社、NHK京都放送局
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※新型コロナウイルス感染拡大防止のため、休館日・開館時間は変更となる場合があります。最新の情報は美術館ホームページ(https://www.momak.go.jp/)=QRコード=をご確認ください。
2021年9月2日 毎日新聞・大阪朝刊 掲載