広場から屋根、さらには空に向かって続くように階段状に造られた小禄南公民館

【レトロの美】
小禄南公民館(那覇市)
苦難越えた…人々の館

文:喜屋武真之介(毎日新聞記者)

建築

 ガジュマルの木が生えている広場を「コ」の字に囲む小禄(おろく)南公民館(那覇市)は、広場から屋上まで続く階段状の構造が印象的だ。鉄筋コンクリート造りで1982(昭和57)年に完成し、翌年には2階に図書館が増設された。

公民館の中庭と館内の間には、強い日差しを和らげる通路がある

 設計は同市在住の建築士、東浜(ありはま)義明さん(66)らで、庭を母屋と納屋、畜舎などで囲む沖縄の伝統家屋から着想を得た。階段状の構造は沖縄で「雨端(あまはじ)」と呼ばれる、民家の屋根からひさしが深く伸びる軒をイメージ。階段の下側に空間を作り、強烈な日差しが直接入り込みにくくなっている。一方で中庭やガラス張りの壁面から効果的に光を取り込み、メリハリを付けた。

階段状に空に向かっていくように造られた建物

 同館のある同市小禄地区(旧小禄村)は、戦前は飛行場建設のため日本軍に、戦後は米軍に土地を強制接収された。厳しい環境の中で培われた住民の連帯意識は強く、同館は数多くの行事や集会に利用され、親しまれてきた。イベント時などに開放される屋上からは、苦難の歴史を経て発展した地域の街並みを一望できる。

天井近くまで続く窓から差し込む日光

2023年1月29日 毎日新聞・日曜くらぶ 掲載

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