
濃い緑の香りが全身を包み込み、小川のせせらぎが心地よい音を奏でる。東京都国立市の知的障害児者福祉施設、滝乃川(たきのがわ)学園本館は落ち着いた風情の中にたたずんでいる。
木造2階建てで、1928(昭和3)年に完成。老朽化のため取り壊し計画が持ち上がったが、有志による支援で保存修復された。2009年、学園創始者とその妻の名から、石井亮一・筆子記念館として建築時の姿がよみがえった。
階段を上ると、大きな採光窓から明かりが差し込んできた。階段は一段一段が低く設計され、踏み面にはラバーが張られて滑りにくくするなど、障害者への配慮が見られる。1階は教室、2階は講堂として使われていた。

大人数を収容する講堂は、上部の梁(はり)を頑丈なものにし、1階の教室の壁などで下部を支え、柱のない広がりのある空間をもたらした。床面などにはパイン材が使用されている。子どもたちのにぎやかな声が外から聞こえてきた。
講堂は現在、コンサートや講座の会場として活用され、幅広い人たちに親しまれている。

2024年6月23日 毎日新聞・日曜くらぶ 掲載