地上80㍍。東京都練馬区役所の展望ロビーから南東の方角を眺めると、角張ったビル群の中にドーム型屋根の建造物がひときわ目を引く。東京23区北西部への配水のため、1929(昭和4)年に完成した旧野方配水塔(中野区)だ。
関東大震災からの復興や人口増により水需要が高まり、多摩川から取水する荒玉水道が整備された。その水は、野方配水塔などを経て、各家庭に届けられた。
塔は高さ約34㍍、直径約18㍍で東側に階段室が設けられている。塔の上部にはアーチ窓が並び、屋根の頂部からは換気塔が突き出ている。鉄筋コンクリート造りの円筒の中に約2000㌧を貯水でき、水圧による自然降下の力で配水した。66年に配水塔の役割を終え、2005年まで災害用応急貯水槽として利用された。
周辺は戸建てが並ぶ住宅街で、家々の間から巨大な塔がふいに顔を出す。10年に国の登録有形文化財に指定され、地域のランドマークとして親しまれている。
2024年6月16日 毎日新聞・日曜くらぶ 掲載