壁一面に並ぶ活字ケースは歴史を感じさせる

 東京・銀座の歌舞伎座周辺を歩いていたら、にぎわいが途切れた路地裏で、「中村活字」と書かれた看板を見つけた。創業112年の活版印刷屋だ。店内に入ると、中村明久社長(73)と、使い込まれた「活字ケース」が出迎えてくれた。

銀座のビルのはざまに建つ中村活字

 活版印刷は凸版式印刷の一種で、鉛合金でかたどった活字を一字一字、活字ケースから拾って組版をつくる。この組版にインクをのせ、圧力をかけて紙に印刷する。印刷圧によって凹凸を感じる手触りや、字体の美しさが特徴だ。活字ケースは漢字の部首やアルファベット別などに並べられ、一つの重さは約10㌔。部首の種類は3000ほどあり、いろいろな大きさの文字もそろえている。プリンター印刷が当たり前になった今、店では名刺やはがきの印刷を取り扱う。最近は活版の良さが伝わり、来店する若者らが増えたという。

店の入り口にある手動式の平圧印刷機。左のレバーを引くとインクを塗った円盤部が回転し、ローラー(中央下)に均一にインクを供給する

 中村さんは「バブル崩壊で多くの人が店を手放し、ビルやマンションになってしまったが、この場所で昔ながらの銀座の面影を残していきたい」と話している。

アルファベットの活字。同じものがいくつも用意されている

2022年11月6日 毎日新聞・日曜くらぶ 掲載

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