石川県立図書館の大閲覧空間=石川県提供

【評・建築】仙田満+環境デザイン研究所 石川県立図書館本の円形劇場

文:五十嵐太郎(建築史家・東北大大学院教授)

建築

 新旧の空間を並べる金沢市立玉川図書館(1979年完成)、大きな白いキューブが印象的な金沢海みらい図書館(同2011年)に続き、同市にもうひとつ、ユニークな図書館が誕生した。16日にオープンした新しい石川県立図書館は、外壁が小刻みに雁行(がんこう)(斜めに配置)するほぼ正方形のボリュームをもち、街並みを意識した弁柄色を基調としている。

石川県立図書館の外観=撮影:大倉英揮

 内部に入り、圧倒されるのは、中心の4層吹き抜けの大きな閲覧空間だ。ここは青い天井のドームの下に広がる、スロープを絡めた本の円形劇場というべきすり鉢状のエリアであり、「身体を動かす」や「本の歴史を巡る」など、独自の12テーマによって本を陳列している(その外周は日本十進分類法に基づく配架)。しかも、文化施設の開発、運営に携わる「トータルメディア」(東京都千代田区)が展示設計に参加し、小さなミュージアムを散策するような体験を提供し、思いがけない本との出会いを生みだす。

 東西南北に対応する色分けやグラフィックデザイナー、廣村正彰によるサインのデザインも、空間のナビゲーションにとって効果的である。また館内のあちこちにちりばめられた工芸作品や、デザイナー、川上元美らによる多様なデザイン家具を楽しむことができる。

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 全体を設計した建築家の仙田満+環境デザイン研究所は、秋田県の国際教養大図書館(同2008年)でもシンボリックな空間を手がけたが、石川県立図書館ではそれをさらに発展させた。また仙田が20代のときに仕えた菊竹清訓による島根県立図書館(同1968年)のジグザグの壁沿いに分節された小空間も想起させる。なお、仙田は子供の施設を得意とし、石川県立図書館の「こどもエリア」も遊具的な空間になっている。

 円形の閲覧室としては、ストックホルム市立図書館(同1928年)も有名だが、ここではブリッジが空中を横断したり、従来の図書館機能に加え、文化交流エリアも備えたりすることで、よりダイナミックな活動を意図している。すなわち、カフェ、「だんだん広場」、ものづくりや食文化の体験スペース、「ブックリウム」(メディア・アート的な本の検索システム)などをもつ。なお、図書館の向かいには、期待の建築家チームによる金沢美術工芸大の新キャンパスも来年完成する予定であり、相互作用が期待されるだろう。

2022年07月20日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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