「地雷原―地雷が埋められたサッカー場、サラエボ」2004=Chromogenic print,縦76センチ、横96センチ、Copyright the artist, Courtesy of ShugoArts

 ある場所に立ったとき、身体で歴史を感じることはないだろうか。そうした場所の足元には実際、時間の遺物が残ることがある。広島の爆心直下からは、こげたしゃもじが見つかり、第一次大戦最大の激戦地、フランス北部の田園地帯には不発弾が埋まっている。

 有形無形の歴史を写真を通して見つめてきた米田知子(1965年生まれ)。ロンドンを拠点にする写真家が、ロシアによるウクライナ侵攻に際して、この約20年間に撮影したさまざまなシリーズから作品を選び、展示している。

「70年目の8月6日・広島」2015=Chromogenic print,縦76センチ、横96センチ、Copyright the artist, Courtesy of ShugoArts

 わだちが遠くに消える道、夕暮れ時の田園地帯、ビルの手前のだだ広い空き地。人けがほとんどない、静かな風景が並ぶ。奥の部屋の中央には、戦後70年目の広島平和記念式典の写真。丹下健三が手がけた公園での、象徴に満ちた時間と場所が描かれる。ここが爆心地だと気づけば、他の写真にも別の意味が立ち上がる。隣にあるのは、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争で、地雷が埋められたサラエボのサッカー場だ。

 露サハリン、仏ソンム、レバノン・ベイルート。韓国の非武装地帯もある。QRコードから解説を読めば、20世紀に戦火や暴力にさらされた土地だと分かる。写真は「表面」を捉えるが、私たちはその穏やかな光景の背後に想像を巡らせ、歴史の残響に耳を澄ます。

 先日、ウクライナで全ての地雷を撤去するのに10年はかかると報じられた。傷が回復するまでには途方もない時間を要し、広島のように一見美しく整えられ追悼されることはむしろまれだ。しかし米田は「この荒波に立ち向かい、全ての人々の魂に宿る光を、希望を奮い立たせ、消すことなく生きていくのだ」と述べる。まるで自らを鼓舞するかのようだ。東京・六本木のシュウゴアーツ(03・6447・2234)で、7月9日まで。

2022年7月6日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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