左から堀川理沙さん、荒川ナッシュ医さん、高橋瑞木さん=横浜市のこどもの国で、細川葉子氏撮影

 2026年に開催される「第61回ベネチア・ビエンナーレ国際美術展」日本館の代表作家に米国在住の荒川ナッシュ医(えい)さん(47)が選ばれた。荒川ナッシュさんの指名を受けて、初の共同キュレーターとして、高橋瑞木さん(香港・CHAT紡織文化芸術館の館長兼チーフキュレーター)と、堀川理沙さん(シンガポール国立美術館シニアキュレーター兼キュレトリアル&コレクション部門部長)が携わる。海外に拠点がある3人がそれぞれの視点から意見を交わしつつ取り組むことになり、主催する国際交流基金(東京都新宿区)で記者会見した荒川ナッシュさんは「一緒に制作することで、(互いに)学べる」と期待を込める。

 荒川ナッシュさんは福島県生まれ、米国籍を有するクィア・パフォーマンス作家。他者と協働することで、展示空間に多様な声が響き合う作品を制作している。昨年末には、同性パートナーの夫との間に、卵子提供と代理出産を経て双子が誕生。ベネチアでは「私の子育てを題材に、未来の子供に向けてどのような社会をつくっていくかを考えたい」とし、自らの背景にある「日本」や移民、ジェンダー・フェミニズムの問題に制作を通してアプローチしていく。

 制作実務に付随する制約についても視野に収める。子育て中の作家の労働や、参加作家側に依拠することが大きいとされる費用負担などについても、「次の参加作家や若い世代のための仕組みを作りたい」(高橋さん)とする。

 パビリオンを設けて国別で競い合うという、前時代の様相を色濃く残すベネチア・ビエンナーレ。堀川さんは会場のジャルディーニにパビリオンがあるのは、アジアでは日本と韓国のみだと指摘し、「ベネチアでも提示されている地政学的な課題を乗り越えられるような仕掛けを考えたい」。高橋さんも「日本の人種や地政学的な枠組みを、もう少し弾力性をもって捉えることができるのでは」と新たな一歩に意欲的だった。

2025年7月3日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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