生活者の視点から創作を続け、既存の制度や構造に問いを投げかける7人の作家の作品を集めた特別展「プラカードのために」が大阪市北区の国立国際美術館で開かれている。
タイトルは出展作家の一人で、時代に先駆けたフェミニズム作品で再評価が進む田部光子さん(1933~2024年)が、61年に発表した文章から取っている。当時の安保闘争や三池闘争、米公民権運動、コンゴ動乱などを背景に<大衆のエネルギーを受け止められるだけのプラカードを作>り、<たった一枚のプラカードの誕生>によって、社会を変える可能性を記した文章だ。思いは同年制作の5点のコラージュ作品「プラカード」(61年)に結実した。
本展を企画した同館主任研究員の正路佐知子さんは<たった一枚のプラカード>とは「行き場のない声をすくいあげ、解放の出発点となるような、生きた表現の象徴でもある」と指摘。それが本展を貫く一つの道標となっている。
田部さんは福岡発の前衛芸術家集団「九州派」(57~68年)の主要メンバーとして活躍。90年代からは海外にも活動の場を広げ、10年代まで旺盛な創作活動を続けた。本展では「プラカード」や、同時に発表された妊娠からの女性解放をうたったオブジェ「人工胎盤」(61年、04年に再制作)など28点を展示している。

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壁一面に色とりどりの切り絵が並び、天井からもつり下がる。谷澤紗和子さん(82年生まれ)の作品群だ。11枚組みの新作インスタレーション「目の前に開ける明るい新しい道」(25年)のほか、洋画家・切り絵作家の高村智恵子(1886~1938年)への手紙などを切り絵にした連作「はいけいちえこさま」など女性表現者の先達との架空の「対話」によって生み出されたシリーズを展示。
「目の前に~」のうちの一作「お喋りの効能(西瓜(すいか))」は、中国の民間芸術「剪紙(せんし)」作家、庫淑蘭(クー・シューラン)さん(1920~2004年)の作品を基にしている。庫さんは季節の表象としてスイカを配置したが、谷澤さんはスイカがパレスチナ連帯のモチーフとして知られていることもふまえ、現代の視点で再構成した。作品を縁取る枠に並ぶ切り抜き文字は、無政府主義者の大杉栄らが虐殺された甘粕事件について智恵子が書いた文章。谷澤さんの作品は幾重にも覆われた「周縁化」のベールを一枚ずつめくり、内にあるものを見つめる視点を持つ。「切り絵」という芸術もまた、美術史の中では周縁化されてきた。

暗い地下道を男が何かつぶやきながら歩いている。飯山由貴さん(88年生まれ)の映像作品「In−Mates」(21年)はそんな場面から始まる。飯山さんは社会の周辺に置かれた人々への聞き取りや記録資料を糸口に個人と社会の関係を考察し、作品づくりに取り組んできた。「In~」は、戦前に東京都内の精神科病院に隔離入院していた2人の朝鮮人患者の看護日誌を基に、関東大震災時の朝鮮人虐殺などの歴史を追う。22年、東京都人権プラザでの上映を「企画趣旨に合わない」などとして都が認めず問題となった。美術館での上映は初。
「In~」は、川崎市出身の在日コリアンのラッパー、FUNIさんが、看護日誌に残った2人の言葉や葛藤を自身の肉体を通して「再現」し、現在まで続く差別の歴史を重ね合わせていく。冒頭から登場する地下道は、彼らが隔離された精神科病院にも、在日コリアンらが置かれた、あるいは私たち自身が置かれた閉塞(へいそく)した状況にも見える。自由への問いは、さまざまな自由を知らぬ間に手放しつつある私たちへも鋭く突き刺さる。

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ひときわ大きな空間を使っているのが福岡県八女市在住の牛島智子さん(58年生まれ)の新作インスタレーション「ひとりデモタイ箒(ほうき)*筆*ろうそく」(25年)だ。牛島さんは地元の産業や歴史に根ざした素材を使ったインスタレーションで知られる。
本作は八女和紙とコンニャク糊(のり)で作った二十七角形の巨大な「フィールド」の上に、家や箒、ろうそく、筆などを模した造形物が置かれ、天井からは牛島さんの詩や言葉を記した和紙のカードがつるされる。家の屋根の上に座っているのは一人の女性。歴史的に「家」に閉じ込められてきた「家婦」(家庭の中で仕事をする妻)がその外に出ている姿だ。
牛島さんは展示室の空間を見て「すぐに革命前夜の沸き立つイメージが出てきた」と語る。あらがうのは「私」であり、でも、一人一人が集まれば「隊」にもなる。タイトルにはそんな思いも込められている。
このほか、労働と支配の関係を問う笹岡由梨子さんのインスタレーション▽複数の男性と女性1人による自身の共同生活を撮影し、家族や結婚の常識を問う金川晋吾さんの写真シリーズ▽08年から宮城県で暮らし、制作する志賀理江子さんの映像インスタレーション--など。来年2月15日まで。
2025年12月1日 毎日新聞・東京夕刊 掲載