19歳のいわさきちひろが縫った小花模様のワンピース=東京都練馬区のちひろ美術館・東京で清水有香撮影

 ◇「本当の自分」まとう自由

 <装いを慈しみ、おしゃれを楽しむとは、未来へいざなう翼を得ること>。独学で洋裁を習得した新聞記者、行司千絵さんは新著『装いの翼』(岩波書店)につづる。同時代を生きた女性--絵本画家・いわさきちひろ(1918~74年)、詩人・茨木のり子(26~2006年)、美術作家・岡上(おかのうえ)淑子さん(28年~)の人生をたどった本書を起点に、同じタイトルを掲げた展覧会がちひろ美術館・東京(練馬区)で開催中だ。「装い」というテーマから、3人がそれぞれ求めた美に迫る。

 実生活で交流のなかった3人だが、いくつか共通点がある。経済的、文化的に恵まれた環境の幼少期だったこと。10~20代の多感な時期を戦時下で過ごしたこと。そして洋裁をしていたこと。

 展示室には19歳のちひろが縫った小花模様のワンピースが飾られている。37年末に上映された米国映画「オーケストラの少女」の主人公の服をヒントに仕立てられた一着。日中戦争が始まり物資が不足していく時代にあって、ちひろは装うことの喜びをかみしめていたのだろうか。パフスリーブやレースといった自分好みのデザインに生きる希望を託していたのかもしれない。

 ちひろが生涯描いた子どもたちの装いも趣向が凝らされている。大きなリボンや色とりどりのセーター。子どもを慈しむまなざしが衣服にも表れている。「ちひろはかわいいものが好きなだけではなく、かわいいものを壊していこうとする力に対する強い憤りがあり、それが表現の核になった」と同館主任学芸員の原島恵さんは解説する。

 茨木も裁縫に親しんだ。<わたしが一番きれいだったとき/まわりの人達が沢山(たくさん)死んだ/工場で 海で 名もない島で/わたしはおしゃれのきっかけを落としてしまった>。戦争体験をそう詩に書いた茨木だが、戦後は自宅の家事室で洋服を自作し、時に既製品のメンズシャツを着こなすなどおしゃれを楽しんだ。民族調のブローチや指輪といった愛用品が展示され、流行より自らの感性や身体にあった装いを大事にしていたことを伝える。

茨木のり子が愛用していたミシン。米国マッコール社の型紙(手前)を好んでいたという=東京都練馬区のちひろ美術館・東京で清水有香撮影

 17歳で敗戦を迎えた岡上さんは洋裁学校に通った後、50年に文化学院デザイン科に入学。ファッション誌『VOGUE』などから<自分の夢にふさわしいもの>を切り抜き、幻想的で物語性豊かなコラージュ作品を生み出した。その一部が会場に並ぶ。画面にたびたび登場する若い女性は優雅なドレスに身を包む。夢の断片を拾い集めた世界で華やかに装うその姿は「自由」を謳歌(おうか)する存在そのものだ。

 装いには生き方が宿る。おしゃれで大事なのはTPO(時間・場所・場合)とされるが、3人は自らの求める美をその手で生み、思うままに表現した。原島さんは言う。「立派な画家や詩人、美術作家といったお仕着せのよろいを脱いで自由になり、本当の自分をまとうことが3人にとっての『装い』だったのではないでしょうか」。2月1日まで。

2026年1月19日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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