笠原恵実子さん「OFFERING」シリーズ(2005~14年)の一部=京都市の京都国立近代美術館で上村里花撮影

 震災やテロ、コロナ禍、戦争、インターネットの普及--混迷や断絶を深める世界の中で、アーティストたちはどのように世界を見つめ、向き合ってきたのか。1990年代から現在までの国内作家20人の作品を集めた「セカイノコトワリ-私たちの時代の美術」展が京都国立近代美術館(京都市)で開かれている。

 作家はベテランから若手まで年代をバランス良く配置。森村泰昌さん、松井智恵さん、やなぎみわさんら関西を拠点とする作家が半数弱を占めるのも特徴の一つ。出展95点のうち約40点が同館所蔵作品。展示は「日常」や「身体」「歴史」などいくつかのキーワードで作品同士を緩やかに関連づけつつ、新たなつながりを鑑賞者自身が自由に見いだすことを目指す。

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 テロや戦争は、突然やってくるように見えて、そこに至る小さな変化やほころびは日々の生活の中で生じている--。最初の展示室は「日常」をキーワードに、そんな示唆をにじませる。地下鉄サリン事件を契機に生まれた藤本由紀夫さん(50年生まれ)の「SUGARⅠ」(95年)は、角砂糖が入ったガラス瓶をモーターでゆっくり回転させ、中で崩れていく角砂糖のかすかな音を聴く。制作から30年を経た現在は、崩れた角砂糖で瓶は白く濁っている。小さな崩壊が繰り返されていった結果だ。同じ部屋に並ぶ竹村京(けい)さん(75年生まれ)の作品はカップや皿など壊れた日用品を薄く白い生地で包み、割れた傷痕をなぞるように刺しゅうが施されている。それは日々の中で失われるものを記憶にとどめ、再生を志向することで、過去と未来をつなぐ試みだ。

 約20年ぶりに展示された石原友明さん(59年生まれ)の「世界。」(96年)は81枚の真ちゅう板とシャンデリアで構成されたインスタレーション。床に敷き詰められた板の上を歩く鑑賞者自身の姿が映し出され、「見る」と「見られる」が反転する。床には「くらやみは まばゆい ひかりの もとに ある」など、いくつかの点字の文章が刻まれ、視覚優位の私たちの世界の認識への疑問が投げかけられる。西條茜さん(89年生まれ)の大型の陶磁器作品「惑星」(2024年)は、浴槽のような四角の箱から3本の管が延びている。その管に3人がそれぞれ息を吹き込み音を奏でる。密着してのパフォーマンスは、コロナ禍以降の他者との距離感を考えさせる。

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 箱やカゴ、皿などさまざまな形状の献金箱を写したおびただしい写真が並ぶ。写真を基に制作されたオブジェも。笠原恵実子さん(63年生まれ)の「OFFERING」シリーズ(05~14年)だ。写真の献金箱は、笠原さんが約10年をかけて世界85カ国のキリスト教会を回って撮影した。各地に存在する教会は、布教とセットだった植民地主義に思いを至らせる。ただ、写真は地域別ではなく形態別に分類され、個々の献金箱が持つ地理的・歴史的な文脈ははぎ取られ別の秩序で配置し直されている。

 3月8日まで。来年1月29日~4月4日、愛知県美術館に巡回する。

2026年1月21日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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