◇奈良・興福寺の弥勒如来坐像など7体
鎌倉時代の仏師・運慶の国宝仏像を360度ぐるっと鑑賞できる。東京国立博物館(東京・上野公園)の本館特別5室で開催中の特別展「運慶 祈りの空間-興福寺北円堂」では、奈良市の興福寺北円堂に安置されている弥勒如来坐像、無著・世親菩薩立像と、かつては北円堂にあったとされる四天王立像の計7体を展示している。
展示室に北円堂内の八角形の須弥壇をイメージした台を設け、その周囲を進みながら当時最高峰の彫刻技術を確かめることができる。
興福寺は、藤原鎌足の病気回復を願って妻の鏡女王が京都に建立した山階寺を起源とする藤原氏の氏寺。
北円堂は鎌足の次男、不比等の一周忌に合わせ、奈良時代の721年に境内の西側に建立された。不比等が遷都を主導した平城京が見渡せる場所だ。平安時代の1049年に焼失して再建されたが、1180年に平氏の焼き打ちで寺全域とともに再び焼け落ちた。鎌倉時代の1210年の北円堂再建に合わせ、運慶とその一門によって現在に伝わる仏像が制作された。
弥勒如来坐像の右手をゆったりと構えて親指と人さし指で輪を作るようにしたポーズは、奈良時代の仏像に特有の姿で、運慶が意識して制作した可能性があるという。ただ、その他の部分に見られる写実性は、鎌倉時代の彫刻の特徴をよく表している。表面に漆を塗って金箔を押した漆箔の剝落止めの修理が2024年6月から行われたばかりだ。
特別展には、北円堂から無著・世親菩薩立像も出展された。5世紀ごろにインドで活躍した無著と世親の兄弟の姿を彫りだしたもので、写実的な表情や法衣の流れるような表現に息をのむ。

北円堂には仏法の守護神とされる持国天、増長天、広目天、多聞天の四天王立像も安置されているが、いずれも平安時代の作で運慶とその一門が制作した仏像ではない。

特別展では運慶らが北円堂に納めたとされ、現在は中金堂安置の四天王立像を展示することで、鎌倉時代の復興当時の堂内を再現した。
北円堂は春と秋の一定期間、扉を開ける特別公開が行われているが、今年は特別展開催で実施しない。
特別展は7体の国宝仏像を間近で見学できるだけでなく、仏像をすべての方向から眺められるようにした。そのため、弥勒如来坐像は背中にある光背を外した状態で展示している。
また、これまでのX線コンピューター断層撮影(CT)などで判明した仏像の構造も紹介している。11月30日まで。料金は一般1700円。
2025年9月18日 毎日新聞・東京夕刊 掲載