LOVEといって思い浮かべるのはどんな愛だろう。東京・広尾の山種美術館で開催中の展覧会「LOVE いとおしい…っ!」では、愛を切り口に近・現代の絵画、約60点を紹介している。
美人画の巨匠、鏑木清方は「薄雪」(1917年)で近松門左衛門作の浄瑠璃本「冥途(めいど)の飛脚」を材に取った。重罪を犯し追われる身となった飛脚の忠兵衛と遊女の梅川が死を覚悟して雪の中、最後の抱擁を交わす場面。鏑木は梅川に心を寄せて描いたとされる。梅川のうなじやほおにかかる後れ毛に漂う哀感。薄く積もり始めた雪が2人のはかない運命を予感させる。悲恋ここに極まれり。
晩年の作「佳日」(60年)は、打って変わって天長節(明治天皇の誕生日、11月3日)の日常を描いた。何事かを語り合いながら、手をつなぎ連れ立って出かける母親と男の子。自身の幼いころを回想したのだろうか。明るい色調の画面に表される楽しそうな休日の情景は、まさに佳(よ)き日の趣。ほのぼのとした家族愛が感じられる。
男女の切ない愛、親子や夫婦の家族愛、身近な動物を慈しむ愛、故郷に感じる郷愁のような愛、信仰に基づく愛--。本展では、さまざまな愛の形を「人々への愛」と「神仏、動物、そして故郷への愛」の2章構成で紹介する。
「目が楽しいから生きものを描くのが好き」と言った奥村土牛(とぎゅう)は、動物を題材にした作品を数多く残した。丸くふわふわとしたさまが可愛らしい「兎(うさぎ)」は、土牛58歳ごろの作品。他に、乳を飲む子鹿と母鹿を描いた「鹿」(68年)や、85歳の作「シャム猫」(74年)などが並ぶ。猫を描いたものでは、小林古径や川合玉堂の作品も。

現代の作家、小針あすかさん(82年生まれ)の「珊瑚(さんご)の風」(2023年)は離島の浜辺の風景を描いた。かなたを見つめる若い女性のかたわらに横たわり、やはり何かを見つめている1匹の猫。興味の対象は遠くではなく、目の前にあるようだ。いかにもやわらかそうな腹の毛と、ちらりと見える肉球に胸がキュンとする。
画家それぞれの愛の表現に「いとおしさ」がこみ上げる。15日まで。
2026年2月2日 毎日新聞・東京夕刊 掲載