兵庫県明石市の海岸の砂を使い独特の世界観を描く画家、たなかしんさん(46)の画業を振り返る特別展「そうぞうのかけら 砂で紡ぐたなかしんの物語」が、同市立文化博物館で開かれている。もう一つの顔である絵本作家としての活動が20周年を迎えることを記念し、初期作品から最新作まで約300点を並べる。
たなかさんは大阪府泉南市出身。美術系の短大への進学を機に明石市に移り、数年後から海岸の砂を下地に使い始めた。「落ち葉や土も使ってみたが、海岸の砂の凹凸に一番表情があると感じた」。また同じ頃に絵本表現に魅力を感じ、絵本制作にも挑戦。当初は手作りを重ねたが、2005年に台湾の出版社から『巧克力熊(くまさんのチョコ)』を初めて商業出版し、その後日本でも『ねむねむごろん』(19年)など多くの絵本を出している。毎日新聞での連載を基にした小説『一富士茄子牛(なすうし)焦げルギー』(19年)は第53回日本児童文学者協会新人賞を受賞し舞台化もされた。
本展でも絵本の原画を多く並べた。最新作『ゾウとクジラ』(25年)などの出版作品だけでなく、原点となった初期の手作り絵本の原画も。『かみさまのいたずら』(06年)は児童虐待のニュースに刺激を受けた作品で、切なくやりきれない物語を会場に特別に用意した小部屋で読むことができる。
絵画では、羽を燃やしながらそれでも何かを描こうと筆を握る天使の姿を描いた「命の灯」(20年)など、画期となった作品を中心に展示。また視覚障害のある人を意識した「触れる」作品も。光を吸収する真っ黒な絵の具で描かれているため目では分かりづらいが、下地の凹凸を触ることでゾウなど生き物の姿が浮かび上がる仕掛けになっている。
今回描き下ろした「そうぞうのかけら」(25年)は、羽の生えた人物たちの周囲に、太陽と月、さまざまな動物たちや植物が幻想的に描かれる。たなかさんは「作品から感じることは人それぞれだが、新たな『想像』や『創造』につながる何かが生まれるきっかけになればうれしい」と語る。9月7日まで。会期中無休。
2025年8月13日 毎日新聞・東京夕刊 掲載