耐火レンガ1万600個が使われたインスタレーション「20世紀の記憶」=東京・練馬区立美術館で13日

 ユーモアと現代社会への批評的まなざしと。陶を用いた立体作品で知られる現代美術家、三島喜美代さん(91)への注目がいっそう高まっている。東京・森美術館の「アナザーエナジー展」(2021~22年)で鮮烈な印象を残し、昨年は美術館初個展が岐阜県現代陶芸美術館で開かれた。そして現在、東京・練馬区立美術館で回顧的展覧会「三島喜美代-未来への記憶」展が開催されている。

 新聞を転写した陶の作品や「ゴミ」のモチーフはどこから生まれたのか。70年を超える活動を平面の時代から順にたどることで、創作の過程を分かりやすく伝える。

 本展で展示されるもっとも古い作品が19歳のときの油彩画「マスカット」(1951年)。緑の色彩でマスカットや焼き魚、ガラス瓶を描き、初々しさのなかに画面を構成しようとする意欲を感じる。

 アンフォルメルふうのスタイルで描いた「覇」(60年)と同年には、雑誌や映画のポスターをコラージュした「Work 60-B」を試み、次いで主要モチーフの新聞がコラージュの素材に登場したり、手書きでコラージュふうに描いたりと展開していく。

 シルクスクリーンでビーナスを重ねた「ヴィーナスの変貌V」(67年)や、束ねた段ボールを写真に撮って制作したエッチングのシリーズ(81年)は、技法もさることながら、この頃から三島さんが集積や、繰り返しに興味を向けてきたことがよく分かる。

 企画した伊東正伸館長が「多くの人に見てほしい」と話すのが、耐火レンガ1万600個によるインスタレーション「20世紀の記憶」(84~2013年)。普段は「ART FACTORY 城南島」(東京)で展示されているものを、展示室に敷き詰めた。古レンガには新聞記事が転写されていて、一つ一つに戦前から現代までさまざまな時代のできごとが浮かぶ。

 見ている人が「あ、日航機墜落事故だ」と声を漏らす。未来から廃虚を眺めているようなSF的情景であり、膨大な歴史の断片に圧倒される。

 空き缶や新聞、雑誌などをモチーフに、消費社会や情報社会の到来を相対化して提示してきた三島さん。ゴミの焼却灰からできた溶融スラグを素材にするなど、エコロジーの観点からも時代を先取りしてきた。ただし、三島さんいわく「無我夢中で遊んでいる」。その軽やかさが一番の魅力だ。7月7日まで。

2024年6月19日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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