◇螺鈿細工で物語ある情景
奈良時代にシルクロードを通じて日本に伝来したとされる螺鈿(らでん)細工。螺鈿はヤコウガイやアワビ、シロチョウガイなどの天然の貝殻の真珠層を用いた装飾技法である。
日本の螺鈿細工は、漆器の装飾として蒔絵(まきえ)とともに貴族文化の中で花開き、桃山時代にはスペインやポルトガルを通じてヨーロッパに輸出された。明治時代になると、長崎や横浜などで在留外国人や外国に向けて、螺鈿で飾られた華やかな調度品が制作された。
この手元箪笥(だんす)も、そうした輸出工芸の一つであったと考えられる。天面、前背面、そして側面を使い、書聖と名高い王羲之が、貴人や文人80余名とともに蘭亭で催した「曲水の宴」が螺鈿細工で見事に表現されている。この物語のある情景を表現するため、貝殻の光彩だけでなく裏側から彩色を施す青貝細工も用いられ、見る者を中国の故事の世界へと誘う。
このようなきらびやかな装飾が施され、東洋風の趣を湛(たた)えた家具や調度品は西洋で人気を博し、日本の輸出工芸の一時代を築いていった。

INFORMATION
特別企画展「軌跡のきらめき~神秘の光彩、ガラスと貝細工~」
<会 期>2026年1月12日(月・祝)まで。午前10時~午後5時半(入館は同5時まで)。9月30日(火)休館
<会 場>箱根ガラスの森美術館(神奈川県箱根町仙石原 電話0460・86・3111)
<入館料>一般1800円、高校・大学生1300円、小・中学生600円
主 催 箱根ガラスの森美術館、毎日新聞社
後 援 箱根町
協 力 箱根DMO(一般財団法人箱根町観光協会)、小田急グループ
特別協力 県立歴史博物館、県立生命の星・地球博物館、町田市立博物館、早稲田大学会津八一記念博物館、高砂香料工業、金子皓彦(国学院大客員教授)、橋本千毅(漆芸家)
2025年9月2日 毎日新聞・神奈川版 掲載