「知覚の標本」シリーズが並ぶ会場。左の作品はパネルを自由に組み合わせることができ、会場ごとにその姿が変化していく=上村里花撮影

【ART】
「どう描く」深め開いた道
大阪・住之江で野原万里絵展

文:上村里花(毎日新聞記者)

現代美術

 何を描くか、よりも、どう描くかを考えてきた--。将来の大阪の文化を担う個人・団体に贈る「咲くやこの花賞」を2024年度に受賞した野原万里絵さんの個展「野原万里絵 名もなき地への思索」が、大阪市住之江区のギャラリー「kagoo(カグー)」で開かれている。

 1987年、大阪生まれ。京都市立芸術大、同大学院で油画を専攻。以降は各地でレジデンス制作や展覧会を多数実施してきた。

 本展は4章構成で、初期作から最新作までの計102点を「輪」「知覚」「火」「秩序」の四つのキーワードで紹介している。「会場全体が私の頭の中。そこにお客さんが入ってきて、迷路みたいに複雑に絡まった思考の中を歩いて、作品が生まれた軌跡をたどってもらえれば」と話す。

 絵画の制作過程を掘り下げるのが野原さんの特徴だ。「絵は誰でも描けるが、どうしたら『私の絵』になるのか。そこに興味がある」。始まりは大学時代。何を描いていいか分からずに悩んだ末、「何を」ではなく「どのように」描くかに注力するようになった。描くものが思いつかないなら、定規で線を引いたらどうか。地元・大阪の御堂筋沿いの風景を写真に撮り、景色をトレーシングペーパーで写し取って組み合わせた「御堂筋定規」なる雲形定規をアクリル板で自作した。

 また、定規の形をくりぬいて木炭粉を吹き付けた大型の作品制作を続けた時期もあり、本展では、近畿大のゼミ生らと制作した木炭作品「風の吹く頃に」(25年、縦2㍍、横9・1㍍)も見られる。

 「絵を通して他者の物の見方や自分との差異をより理解できる」と協働制作にも積極的だ。本展のメイン作品の一つ「知覚の標本」シリーズ3作は、国際芸術センター青森(青森市)でのレジデンス期間中に一般参加者と制作した。野原さんが各地の海岸で拾い集めた石の中からそれぞれが好きなものを選び、石の色や模様をアクリル絵の具で描いたパネルを「遺跡を造るように」組み合わせた。18年に訪れたインドで遺跡を構成する石の色に魅せられ、それを再現したいと思ったのがきっかけだ。

 新作が並ぶ4章「秩序」では、24年に画家・山田正亮さん(故人)の制作過程を調査する中で得た気づきを基に制作した作品群を展示。絵の中に白い線(空白)を残し、さまざまなパターンの色彩を組み合わせた。題材は自身が見た「夢」だ。
 23日まで(火、水、木曜休館)。

2026年3月9日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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