巨大スピーカーに向き合うよう設置された座席。撮影禁止の店内で許可を得て撮影

【レトロの美】
名曲喫茶ライオン 東京都渋谷区
幸福な時間

文:尾籠章裕(毎日新聞記者)

デザイン

建築

 1960年代に全盛期を迎えた名曲喫茶が姿を消す中で、若者らでにぎわう東京・渋谷で老舗が輝き続けている。26年に創業した「名曲喫茶ライオン」。地上3階、地下1階の木造建築で、今は一部吹き抜けの1、2階で営業している。初代店長の故山寺弥之助さんが、内装や外装のデザインを手がけた。店名はロンドンの「ライオンベーカリー」に由来している。

渋谷の歴史を見つめてきた「ライオン」の入り口

 店内では、クラシック音楽に包まれるような感覚になる。特注の巨大スピーカーに向き合うように座席が配置され、座ると午後3時と午後7時にある「定時コンサート」の曲目を記したリーフレットが店員から渡される。曲目を見るだけでもぜいたくな気分に浸れる。

 5000枚以上の貴重なレコードとCDも店の自慢の一つ。弥之助さんの親族、直弥さん(60)は「学生時代から店に通っていた60年来の常連さんが今も訪れてくれます。『店は全然変わっていないね』と言ってもらえるのもうれしい」と話す。名曲に耳を傾ける幸福な時間がここにはある。

店員間の注文の連絡に使われる手作りのカード

2022年4月3日 毎日新聞・日曜くらぶ 掲載

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