現代美術家のシュンスドウさん=内藤絵美撮影

 世界的な企業とコラボを重ね、作品を出せば飛ぶように売れる現代美術家、シュンスドウ(SHUN SUDO)さん(48)。美術の専門教育は受けておらず、元イラストレーターという異色の経歴で、生み出した人気のモチーフは「ボタンフラワー」だ。ボタンの周りに花びらをあしらったモチーフに込めた思いとは?

 東京都内のアトリエを訪ねると、所々に絵の具がついた黒いジャケットを着て、描きかけの作品に向き合っていた。取材を始めようとすると「絵の具がついちゃうから、隣の部屋がいいかな」と気遣ってくれた。素朴で控えめな印象だが、その作品は国内外で注目を集めている。

 2021年の東京五輪でスケートボード会場の壁画を制作。その後も独ポルシェとアートカーを作り、モードの世界でも仏クリスチャン・ルブタン、コムデギャルソンが展開するブランド「タオ」とコラボするなど、引く手あまた。数々の作品で描かれているボタンフラワーの発想のきっかけは、移民国家の米国にある。

 「初めて15年にニューヨークで個展をやったんです。多様な人種の方がいて、必死に生きている街のエネルギーを感じて、それを花に見立てて描きました。その中心にギミック(仕掛け)としてスマイルマークやトマト缶のフタなどを入れてみたんです。その一つにボタンがあって、描いてみたらなんか面白いなと」。当時描いたのが「CHAOTIC HAPPINESS」だ。

シュンスドウさんの作品から 「CHAOTIC HAPPINESS」(15年) ©SHUN SUDO

 ボタンは、洋服では生地と生地をつなげるもの。「そこから人と人、人と街をつなげるという意味合いを込めて、作品に描いていくようになりました」。作品によって花びらは肉厚な雰囲気だったり、薄く風にひらめく印象だったり。色も赤や紫、黄色など多様で、大きさもさまざまだ。

 自ら「ピースアイコン」と呼ぶこのボタンフラワー。「アートはコンセプトが重視される。花は単純にきれいで癒やしであり、パワーも感じるので、もともと描くのが好きでした。自分は暗く考えさせる絵よりも、見る人に元気が出ると言っていただけるような絵を描きたい。そんな気持ちで、ボタンフラワーを大切にしてきました」

 シュンスドウさんは幼い頃から絵が好きだった。小学生の頃は漫画「ドラゴンボール」をまねて自由帳に鉛筆を走らせた。3年ほど絵画教室に通ったこともある。しかし、「絵画って難しい。すごい人が描いているイメージ」で、美術家になろうとは思ってもいなかった。

 卒業文集に書いた将来の夢はスキーの選手。「何か書かなきゃと思って、埋めるために」と笑う。中学はバレー部、高校はサッカー部に所属した。

 高校卒業後、オーストラリアに語学留学。語学学校の友人が国に帰る時には、海、花、車などをミックスさせて描いたカードを贈った。サーファーが多く、アイライナーでボディーペイントをすると喜ばれた。

 好きな絵を描いて周りから喜ばれた経験はあったものの、専門的に学んだことはなかった。日本でバイトし、お金がたまると海外へ出かける生活を続けた。「楽しんでやってたんで、将来への不安とかもあまりなかった気がします。のんびりしてましたね」と笑う。

 転機は20代後半。バイト先の知り合いの縁でイラスト会社に就職したのだ。鉛筆で描いた線をスキャンしてパソコンで色をつけるなどして、数々のイラストを描いた。レストランの壁画や商品パッケージなどで経験を積み、イラストレーターとして自立できると手応えを感じた。

 深夜まで働く激務が続いたこともあり、独立のため兄の須藤仁さん(50)と12年に会社を設立。雑誌のイラストを請け負うなど活躍の場を広げた。

 実績を積むと、「自分が描きたい絵をキャンバスに描いてみたいと思いました」と創作意欲をかき立てられた。「アート=ニューヨークというイメージがあった。ニューヨークで発表したい」。そんな弟の希望を聞いた仁さんはリサーチしたものの、現代アートの本場で人とのつながりや実績はなく、個展の開催は難しそうだった。「でも弟は『難しいかどうか、確かめに行こう』って言ったんです」

 作品を持って飛び込みでギャラリー約60カ所を回った。認めてくれたギャラリーで初めて個展を開催し、8点中7点が売れた。現代美術家としてデビューを果たした。

 20年に始まったコロナ禍で「It's So Hard」を制作した。戦闘機や銃など戦争を思わせるモチーフを重ね、白い空間はコロナを表現。花を中心に生き物や食べ物をカラフルに描いたそれまでの作品とは趣が異なる。「世の中が重たい感じだったので、画家としては記録として残したいと思いました」。とはいえ、「希望がある感じにしたい」と考え、右端にはピアノと白いハトを描いた。

シュンスドウさんの作品から 「It's So Hard」(2020年) ©SHUN SUDO

 それにしても、美大を出たわけでもなく、なぜこんなに絵が上手なのか。ふと疑問を口にすると、「いや、上手ではないんですよね、今も。美大生の方が上手は上手。僕はオリジナルの線みたいなのがあるから、見ていただけるようになった感じだと思います。絵はうまくないですよ、全然」と言い切った。

 シュンスドウさんの作品の大半はアクリル絵の具で描かれ、ポップな雰囲気が漂う。

 しかし、アトリエには描きかけの油絵が並んでいた。「油絵はいつかはやりたいと思っていました。表現の幅が広がって、ダイナミックにパッションで描ける」。昨年から油絵の作品も発表している。

 油絵のボタンフラワーは複雑な色味や質感があり、深みや勢いを増した印象を受ける。「乾くまで待って色を重ねていくので、自分と対峙(たいじ)する時間がある。自分で止めないと無限に重ねていけてしまうので。向き合いながら描いています」と語る。「アクリルは評価していただいた部分もありますが油絵はまた一から。振り出しです」とどこまでも謙虚だ。

シュンスドウさんが使用している画材=内藤絵美撮影

 デビューからわずか10年。この目覚ましい活躍をどう思っているのか尋ねると、こう返ってきた。「本当に地道に、着々と個展を重ねて一個ずつやってきた感じです。コラボのお話はうれしいですが、飛躍とかそういう感覚はあまりないです」

 個展を中心に活動してきたが、今後は多くの人の目に留まる街中の大きな壁画などにも挑戦したいと考えている。「アートは本来、難しいものではなく、誰でも身近にあるものだと思う。アートでポジティブな気持ちになってもらえれば」と願う。

シュンスドウさんの作品「ETERNAL MOMENT」(京都・両足院、23年) ©SHUN SUDO

PROFILE:

SHUN SUDO(シュンスドウ)さん

1977年、東京都生まれ。イラストレーターを経て2015年、現代美術家として米ニューヨークでデビュー。以後、日米で個展を重ねる。東京・銀座のGinza Sony Parkで3月、「花見」をテーマにした展覧会「ART IN THE PARK : SHUN SUDO “HANA−MI”」を開催する。

2026年2月10日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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