中尾寛「少年文庫段段ミルン」(2014年)=提供写真

【Topics】
ブックアート、広がる世界
うらわ美術館開館25周年で記念展

文:小松やしほ(毎日新聞記者)

ブックアート

 ◇作家たちの思想、疑問が形に

 うらわ美術館(さいたま市浦和区)は今年、開館25周年を迎えた。その作品収集方針の柱の一つが「本をめぐるアート」だ。開催中の記念展「約束の場所で ブック・アートで広がるイマジネーション」では、1500点を超える収蔵作品の中から、現在活躍中の日本人作家21人の作品を、ブックアート収集・研究の盛んな英国で活躍する作家の作品とともに紹介する。

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 ブックアートの定義は難しい。美しい装丁の本、美術家が描いた挿絵、飛び出す絵本などのポップアップアート、本を素材あるいはテーマにした美術作品、本の形のオブジェ、美術家たちが自らの思想を発信した宣言書やマニフェスト。そのどれもが「ブックアート」なのだという。世に1点の作品ばかりでもない。収蔵場所も「アート」とみなせば美術館、「本」であれば図書館、「文献」となれば資料館や博物館となる。

 その領域の広さを象徴するように、本展は<ブック・アートって?>という根源的な問いから始まる。

 ガラスケースの内と外、赤い表紙の同じ本が展示されている。柏原(かしはら)えつとむさんの「これは本である」(1970年)。ケース外の作品は手に取っていい。ページをめくれば「これは本当に本なのか」と、表現を変えながらこれでもかと問うてくる。「これは本だ」という〝常識=思い込み〟は正しいのか、一度は疑えと突きつけられる。繰り返される問いは、何が芸術かという作家自身の疑問であり、ブックアートの定義にも連なる問いである。

柏原えつとむ「これは本である」(1970年、うらわ美術館蔵)=提供写真

 中尾寛さんの「少年文庫段段」シリーズは児童文学の文庫本を彫り込んだ作品だ。中尾さんは、実験的な設計を手がけるアンビルト(実現しない建築)の建築家としても知られる。どこから彫るか、どこまで彫るか。文脈を踏まえ綿密に刻まれた本には小さな空間が生まれ、記された物語とはまた違う、見る人それぞれの風景が立ち上がる。

 西村陽平さんの「記憶と時間-岩波文庫の焼成からの断片的な考察」(2007~19年)は、岩波文庫61冊を陶芸窯で焼きしめた。元の見た目はほぼ同じ。かつ同じ温度で焼いたにもかかわらず、花のように開いて膨れ上がったり、くしゅっと小さく縮まっていたり。その姿形や色はどれ一つとして同じではない。そこに浮かび上がるのは、個々の本に内包された記憶と時間だ。

西村陽平「記憶と時間-岩波文庫の焼成からの断片的な考察」(2007~19年、うらわ美術館蔵)=提供写真

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 展示の最後に待つのは、ブックアートに出合える場所を書き込んだ世界地図。本展を出発点に、ブックアートの世界を広げてほしいとの願いが込められている。来年1月18日まで。

2025年12月15日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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