中谷ミチコさん「影、魚をねかしつける」(2025年、部分)=上村里花撮影

 すべすべ、でこぼこ、ギザギザ--感触の違いを確かめていく。作品に触れて鑑賞する「美術の中のかたち-手で見る造形」展が兵庫県立美術館(神戸市)で開かれている。視覚優位の美術鑑賞に一石を投じる企画で、前身の県立近代美術館時代の1989年から続くシリーズだ。今年は津市在住の彫刻家、中谷ミチコさん(81年生まれ)の新作「影、魚をねかしつける」(2025年、高さ約2㍍、横約11㍍)を展示している。

 中谷さんは東京都出身。多摩美術大彫刻学科を卒業後、ドイツに5年間留学。帰国後の10年、「VOCA2010」で奨励賞、23年には中原悌二郎賞を最年少で受賞した。現在は三重県にアトリエを構え、多摩美術大准教授も務める。20年には東京メトロ虎ノ門駅のプラットホームに凹形レリーフ「白い虎が見ている」が恒久展示された。中谷さん初のパブリックアートで、兵庫県立美術館の林洋子館長は「本作につながる重要な作品」と評する。

 中谷さんの作品は、凹凸が反転した凹形レリーフが特徴だ。粘土で作った人の形を石こうでかたどり、粘土を取り除く。そのくぼみに陰影が生まれ、居ないはずの人の姿が浮かび上がる。視覚の不確かさが作品となって現れる。

 魚を抱く少女、互いに触れ合う複数の少女たち、泣く少女--作品の中で形作られた少女たちは一つの物語を紡いでいそうだが、中谷さんは「まとまった物語はない」と話す。登場人物一人一人が物語を背負い、それぞれが「他者に影響したりしなかったり、つながったりつながらなかったり、物語が始まりそうで、始まらない」。鑑賞者もそんな登場人物の一人となって、物語を受け取ったり受け取らなかったり、対話したりしなかったりする。

 あえて彩色せず、石こうを白いまま残した。「色を手放し、代わりに(時間をかけて)感触を作っていった」。頰はなめらかで優しく、服の部分はでこぼこが残り、髪は一本一本が彫り込まれている。平面も凹凸が感じられる。

 「作品と鑑賞者の出発点を同じにしたかった」と言い、少女たちの立つ地面と鑑賞者が立つ床は「地続き」だ。等身大の、そこに「居ない」少女たちと向き合い、触れ合う。12月14日まで。

中谷ミチコさん「影、魚をねかしつける」(2025年、部分)を展示する兵庫県立美術館の館内。手で触って「鑑賞」できる=上村里花撮影

2025年11月17日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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