鈴木京香さん=内藤絵美撮影

 俳優の鈴木京香さんが、9日まで開催される現代アートの祭典「アートウィーク東京(AWT)」のアンバサダーを務めている。吉阪隆正設計の名住宅「ヴィラ・クゥクゥ」(1957年、東京都渋谷区)の取得、保存など熱心なアート、建築好きとして知られる鈴木さん。その遍歴を聞いた。

 AWTは東京の現代アートの創造性と多様性を国内外に発信するイベント。50以上の美術館・ギャラリーが参加し、それぞれに展覧会を開催するほか、AWT独自のプログラムやイベントも展開、現代アートの今に触れる貴重な機会となっている。

 今年で5回目を数えるAWTで、鈴木さんがアンバサダーを務めるのは2年連続の3回目だ。「最初は広報大使という役目を簡単に引き受けてもいいものかしらとも思いました。ですがアートファンであるとは胸を張って言えます」

 スイスで開かれる世界最大級のアートフェア「アートバーゼル」も含め、海外のフェアに何度も参加してきた経験からも「『ここが楽しくてすてきですよ』と広める係だと思って、今は気負わずにやらせていただいています」とほほ笑む。

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 幼いころから絵を描くのが好きだった。自宅には画集もたくさんあり、よく眺めてもいたという。高校では美術部だった。「小中高では美術に関しては良い成績をもらっていましたし、展覧会で入賞したこともあるんですよ」

 だが、美術大学への進学は考えなかった。「デッサンがあまりうまくなくて。それ以上に才能やセンスが必要ですから、私には無理だなあと思いました」

 高2から始めたモデルの仕事が楽しくなってきたこともあり、選択肢に入れるまでもなかったという。「最近はもっぱら見て楽しむ方です」と笑う。

 コンテンポラリーアートで好きな作家は、アメリカ現代美術を代表する作家、サイ・トゥオンブリー(28~2011年)。「彼を好きになって、世界各地の現代美術館を巡りたいと思うようになりました。23年に世界文化賞を受賞した画家、ヴィヤ・セルミンスさんも好きです。憧れですね。(ドイツの現代美術家)ゲルハルト・リヒターさんも大好きです」。共通するのは「時代で作風や技巧が少しずつ変わっていく作家」。「果敢に挑戦し続けている姿を心から尊敬しています」と声を弾ませる。

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 ヴィラ・クゥクゥを個人で購入したのは22年。完成当時に近い姿に修復したうえ、24年から月に数回、一般に公開している。

俳優の鈴木京香さんが完成当時に近い姿に修復した「ヴィラ・クゥクゥ」

 ヴィラ・クゥクゥのことは、取り壊しの危機にある住宅遺産を継承するための仕組みづくりや支援活動を行う一般社団法人「住宅遺産トラスト」のウェブサイトで知ったという。「初めて中を見学させていただいた時は、何てすてきな可愛らしい建物なんだろうと思いました」

 初めは見学に訪れただけ、のはずだった。だが、そこで「このままでは取り壊される可能性が高い」という説明を受け「居ても立ってもいられない気持ちになりました」。何回か足を運んでいるうちに「もう私が何とかするしかない」と心に決めたという。

 「使命感を感じていたわけではなく、この家が元通りに美しくなった姿を見てみたいという思いだけでした。自分の喜びのために始めたことではありますが、建物をお見せすることを喜んで、感想を寄せてくださる方もたくさんいます。それを読むと、『残せてよかった』と心から思います」

 ヴィラ・クゥクゥの再生に尽力したことが評価され、23年には日本建築学会文化賞を受賞。文化庁の「建築文化に関する検討会議」の委員も務める。

 昨年からは、谷口吉生設計の「雪ケ谷の家」(75年、東京都大田区)を一定期間、借りる契約を結んだ。家具を置き、アートを飾って美しく保っている。「人の手が入らない住宅は傷みます。そこに人がいるということがとても大事だと思うんです。ときどき顔を出すだけでも断然、家が生き生きしてくる。管理人として、そのお手伝いをしているという感覚です」

 私財を投じてなぜ名作住宅を引き継ぎ、管理するのか。「昔からある美しいものは、都市の財産だと思うんです。できる限り、これからの方たちに見てもらえるように残していきたい。それぐらい、美術や建築や芸術は生活に必要なものであり、とても大切で、ありがたいものだと私は思っています」。目を輝かせ、熱く語る姿に、心からのアート・建築愛を感じた。

2025年11月6日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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