展示会場となる渉成園=京都市下京区で、筆者撮影

【KOGEI!】
京都工芸の共生と競演

文:外舘和子(とだて・かずこ=多摩美術大学教授)

工芸

 話題の大阪・関西万博も残り約1カ月(10月13日まで)。万博は、日本が正式に参加し始めた明治初期から工芸が重要な位置を占めてきたが、今回の万博会期中には京都府主催の「まるごとゲートウェイ」と題したシリーズとして、京都の歴史的建造物を舞台に、いけばな、日本画、写真などに続き、工芸の展覧会が開催される。そのキュレーションを依頼され、筆者は会場の東本願寺「渉成園」を幾度も下見し、この原稿執筆中も、京都府の職員や事務局、作家たちとのメールを頻繁に交わしている。

 展覧会名は「京都工芸の現在-『渉成園』での共生と競演」(10月2~6日)。東本願寺別邸の渉成園(枳殻きこく邸)は、近世以来の歴史があり、季節ごとの花や紅葉が楽しめる庭園と和室の空間である。ここで京都工芸美術作家協会所属の約70名によるさまざまな工芸作品が空間と「共生」し、作品同士が生き生きと「競演」する予定である。

 京都工芸美術作家協会は戦後まもなく染織作家・山鹿清華(1885~1981年)を中心に創設され、日展系、伝統工芸系、新匠工芸系、無所属などの、会派を超えた作家たちの集団として現在300人以上が名を連ね、いわゆる人間国宝や大学の工芸作家教員、若手もベテランも含まれる。

 来場者の通り道や、空間の細かな状況などを考慮しなければならないため、展示レイアウトも、現場で展示什器じゅうきの業者や作家たちと一緒に検討した。その際、木工芸の人間国宝の飾り棚の作品に、ある作家の人形作品を置くことを提案すると、作家たちから口々に躊躇ちゅうちょする声が上がったので「人間国宝の作品をただ『展示台』にするというのではありません。この木工作品と人形作品それぞれのモダンさが互いに相乗効果を上げると思うからです。また外国人の来場者には、『飾り棚』というアイテムの機能を見せると共に、日本人が用途の有無で作品に優劣をつけるのではなく、生活空間での多様なモノの組み合わせやたたずまいにも美を見いだす国民であることを知っていただきたいのです」と説明した。

 展覧会では、畳や障子の雰囲気はもちろん、床の間や違い棚などの本来のしつらえを極力生かし、茶道具、着物、屛風びょうぶから、人のサイズを超えるファイバーアート、陶芸、漆芸、金工、ガラス、皮革の立体作品など、京都の工芸の多様性と現在を示す。庭園の芝生や池の中などには、動物の姿かたちの陶芸作品を展示するなど、この場所ならではの「共生空間」ともなるはずだ。出品作品全体としての華やかさは、琳派発祥の歴史を持つ京都らしさもおのずと表れるに違いない。

 渉成園の庭師によると、庭園の植物の手入れについては、本来の植生や自然の状態を極力生かし、剪定せんていし過ぎない(作り込み過ぎない)ことにも配慮しているという。京都工芸美術作家協会は創立80周年を迎える。その歩みは戦後80年の日本の歴史の確かな一部でもある。誰もが自分らしさを失わず、輝ける世の中を築いていく--世界80億人の「いのち輝く未来社会のデザイン」という万博のテーマに、現代を生きる京都の工芸作家たちが挑む展覧会でもある。

2025年9月8日 毎日新聞・東京朝刊 掲載

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