「サマーナイト」ティーサービス、マイセン、1974年ごろ~、装飾:ハインツ・ヴェルナー/器形:ルードビッヒ・ツェプナー、個人蔵

 ◇泉屋博古館東京で

 特別展「巨匠ハインツ・ヴェルナーの描いた物語(メルヘン)-現代マイセンの磁器芸術-」が30日から、東京都港区の泉屋博古館東京で始まる。本展の見どころを、森下愛子・同館主任学芸員が解説する。

 ヨーロッパを代表する名窯、マイセンは、18世紀に王立の磁器製作所として創業した。1000年以上の歴史をもつドイツの古都マイセンの地に、熱心な東洋磁器愛好家であったザクセン選帝侯のフリードリッヒ・アウグスト1世(通称・アウグスト強王、1670~1733年)の命により王立磁器製作所が設立されたのは1710年のことである。アウグスト強王はとりわけ17世紀に日本の肥前(現在の佐賀県)、有田で生産された「柿右衛門様式」の色絵を愛し、マイセンでも色絵による硬質磁器が作られた。「色絵柴垣松竹梅鳥図皿」は、延宝年間(1673~81年)ごろの「柿右衛門様式」のひとつであり、アウグスト強王の旧蔵品であったことがわかる作品である。

「色絵柴垣松竹梅鳥図皿」、肥前・有田、1670~90年代、個人蔵

 本展では長い歴史をもつマイセン窯の中でも、戦後の旧東ドイツ時代に数々の名品を誕生させたアーティスト、ハインツ・ヴェルナー(1928~2019年)にスポットをあてた。1960年にマイセン磁器製作所は創立250年を迎え、新たな時代の幕開けを迎える。ヴェルナーを含むアーティスト集団「芸術の発展を目指すグループ」が結成され、67年には、かつてアウグスト強王の狩りの城だったモーリッツブルク城にアトリエが設けられ、次々と独創的なマイセン作品を創造した。

 ヴェルナーの代表作のひとつ、「サマーナイト」ティーサービスは、シェークスピアによる喜劇「真夏の夜の夢」のキャラクターを幻想的に描いたもので、装飾をヴェルナーが、器形を造形師のルードビッヒ・ツェプナー(1931~2010年)がてがけた魅力的な作品である。ヴェルナーと共に活躍した造形師のツェプナーによる「グローサー・アウスシュニット」は現代マイセンを代表するフォルムである。彫塑家のペーター・シュトラング(1936~2022年)は文学作品への造詣が深く、魅力的な彫像、人形をうみだす。絵付師のルディ・シュトレ(1919~96年)は、数学と天文学を好み、幾何学的な作風を得意としたグループの長老で、花と果物を得意とした絵付師のフォルクマール・ブレッチュナイダー(1930~2024年)が加わり、5人のグループとなった。彼らは、「一人は皆のために、皆は一人のために」という三銃士の言葉を合言葉に、それぞれ異なる強烈な個性を互いに生かしあって現代に名作の数々を送り出した。「アラビアンナイト」コーヒーサービスもそんな名作の一つである。

「アラビアンナイト」コーヒーサービス(部分)、マイセン、1967年ごろ~、装飾:ハインツ・ヴェルナー/器形:ルードビッヒ・ツェプナー、個人蔵

 マイセンでは、戦時中に空襲から守り抜いた古文書や70万点もの石こう型が残る。1960年代のマイセンでは、「芸術の発展を目指すグループ」の発足の一方、マイセンの長い伝統を守った製品も求められていた。ヴェルナーは、アウグスト強王が収集したマイセンコレクション、その中でも絵付師ヨハン・グレゴリウス・ヘロルト(1696~1775年)時代のものを熱心に研究したとされる。「アラビアンナイト」宝石箱は、1763年に造形師ケンドラーが作ったロココ様式の器形に、ヴェルナーが「アラビアンナイト」の装飾を施したものである。マイセン伝統の器形に新しい装飾を試した習作と考えられる珍しい作品である。

「アラビアンナイト」宝石箱、1966年ごろ、装飾:ハインツ・ヴェルナー/器形:ケンドラー、個人蔵

 メルヘン世界凝縮

 「ミュンヒハウゼン(ほら吹き男爵)」コーヒーサービスは、ドイツのメルヘンの世界が凝縮された作品の一つ。「ほら吹き男爵」の物語から抜粋された場面やモチーフが、繊細かつ楽しげなタッチで描かれる。黄色地に円形の枠を描き、その中に絵付けをする絵柄は、ヘロルトが創出したとされるマイセン初期のシノワズリー様式からその着想を得たと伝わる。本作は1964年春のライプチヒ・メッセで発表された際、マイセン内外で非常に高く評価された。晩年に発表した「ドラゴンメロディ」コーヒーサービスは、6匹いるドラゴンのうち1匹は、魔法で姿を変えられてしまった王子で、その王子が主人公の創作メルヘン。「アラビアンナイト」「サマーナイト」から、さらにオリジナリティーを高めたヴェルナーのメルヘン世界の集大成と言えるだろう。

「ミュンヒハウゼン(ほら吹き男爵)」コーヒーサービス、マイセン、1964年ごろ~、装飾:ハインツ・ヴェルナー/器形:エアハルト・グローサー、アレクサンダー・シュトルク、ルードビッヒ・ツェプナーの共作、個人蔵

 「私のすべてのイメージは生きる喜び、愛、そして明るさであふれています--それこそが私たち人間があらゆるときに必要とするものなのです」(ハインツ・ヴェルナー画集「Lebenslust」より)とヴェルナーは語っている。マイセン窯が培ってきた高度な磁器作りの技術と、5人のアーティストによる「芸術の発展を目指すグループ」が生み出した新しい作品の数々には、生きる喜びの表現、そして平和への思いが込められた。また、ヴェルナー自身が残した「日本は第二の故郷」という言葉のとおり、ヴェルナーは大変な親日家としても知られ、「富士」など絵画作品も描いた。日本との関わりも深い人物である。彼が創作した名作を中心に、現代マイセンの美しき磁器芸術をお楽しみいただきたい。(寄稿)

「アトリエでの制作風景」(「MEISSEN 75」マイセン、1975年刊行より転載)、撮影:クラウス・テンツァー、個人蔵

INFORMATION

特別展「巨匠ハインツ・ヴェルナーの描いた物語」

<会   期>30日(土)~11月3日(月・祝)。月曜休館(ただし祝休日は開館、翌火曜休館)。入館は午前11時~午後5時半。金曜は午後6時半まで
<会   場>泉屋博古館東京(東京都港区六本木1 東京メトロ南北線六本木一丁目駅下車)
<入 館 料>一般1500(1300)円、学生800(700)円、18歳以下無料。※かっこ内は20人以上の団体料金。オンラインチケットはこちら。お得な前売り券は29日(金)まで
<問い合わせ>ハローダイヤル(050・5541・8600)

関連イベント 学芸員によるスライドトーク
9月11日(木)、10月16日(木)。各回正午から。所要時間45分。予約不要(要入館券)。当日午前11時から整理券配布

主  催 毎日新聞社、公益財団法人泉屋博古館
後  援 TOKYO MX
監  修 荒川正明氏(学習院大学教授)
特別協力 アンティークアーカイヴ
協  力 マイセン磁器日本総代理店 ジーケージャパンエージェンシー株式会社
企画協力 キュレイターズ

2025年8月29日 毎日新聞・東京朝刊 掲載

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