小林優希さんのシリーズ「はこふぃぐめんと」(2025年)=広瀬登撮影

 洪水のようにあふれる情報と、どのように接したらよいのか。ここ20年のインターネットやソーシャルメディア、AI(人工知能)の急速な発達で、自らが立つ場所や進むべき道を見失いがちだ。目や耳から飛び込んでくる映像と音、それらと対峙(たいじ)する身体と感情、すべての糸を操る物理現象とデジタル技術--相対する変数群は無限に交差し、「複合的な現実」を次々と生成する。

 その様をアートを通して提示し、再認識させてくれるのが東京・初台のNTTインターコミュニケーション・センター(ICC)で開催中の「みくすとりありてぃーず--まよいの森とキミのコンパス」展だ。情報科学芸術大学院大の赤羽亨教授とICCの鹿島田知也学芸員のキュレーション。一般化された科学技術を内包した作品と鑑賞者が相互作用しながら、より根源的にメディア技術を考えることを目指す。

 まず会場で出迎えるのが、津田道子さんの「見えない道、つねにすでに」。黒い枠と画面、カメラなどを使いながら、映し出す映像の時間軸をずらして過去と現在の空間をゆがめ重ねる。八嶋有司さんの「it's very beautiful over there.」は、3Dスキャナーで捉えた日常風景の線像を展示室の壁に投影する。小林優希さんのシリーズ「はこふぃぐめんと」もユニーク。小箱で屋台などのジオラマを作り撮影。それを拡大してプリントしたものを背景に、作家自身がモデルとなってさらに撮影する手法で物語をつむぐ。

津田道子さんの「見えない道、つねにすでに」(25年)=ICC提供

 平瀬ミキさんの「氷山の一角--いいかげんできまじめなドリフト」、早川翔人さんの「マイン・マインド」、時里充さんの「へんしんエクササイズ#1」も、それぞれのアプローチでメディア技術と我々の現在地の関係性を探っている。

 興味深いのが首にかけて鑑賞する「AR Audio Guide」。スマートフォンとそのカメラを使った最新技術で、特定の展示空間に入ると作品固有の音響や解説がイヤホンから流れる。単なるイヤホンガイドにとどまらない、作品表現の可能性を拡張する技術として進化を期待したい。15日まで。

2025年9月1日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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