❶木材で星座を作る=北九州市立美術館提供

 アーティストの中島佑太さん(40)が立案した「岩を砕いて砂場を作る」「布で作った植物園のツタを伸ばす」「展示室で筋トレする」などのワークショップに来場者が参加する体験型の企画展「中島佑太 だれかと逃げ出せグーチョキパー!」が北九州市立美術館(本館)で開催されている。作品作りに来場者が加わることで、作品は作家の発想から離れて変化し、新たなカタチを作り出す。それは美術館という「場」、ひいては社会のあるべき姿を見つめ直す機会にもなっている。「だれかと逃げ出せグーチョキパー!」という不思議なタイトルには「だれかと一緒に、美術館の価値観から逃れ、じゃんけんのような対等な関係で」という本展に対する中島さんの願いがこもる。中島さんのワークショップの特色、本展の楽しさについて小松健一郎・同館学芸員に寄稿してもらった。

 ◇美術館のありえない あえて

 本展は、作品を静かに鑑賞するのではなく、身体と頭を使いながら、中島佑太さんのワークショップに参加する展覧会です。

 美術館でのワークショップと聞くと、絵を描いたり、何かを作ったりすることを思い浮かべる方も多いでしょう。本展でも、木材で星座を作ったり=写真❶(左から2人目が中島さん)、布でカラフルなツタを編んだりする制作体験が楽しめます=同❷。

❶木材で星座を作る=北九州市立美術館提供
❷布でカラフルなツタを編む制作体験=北九州市立美術館提供

 一方、展示室で所蔵作品を見ながら筋トレする=同❸、ハムスターの着ぐるみを着る=同❹、会場内に流れるラジオ放送に出演する、といった一風変わった活動も準備されています。これらは、作品を制作するというよりも、参加者自身が実演することで、「作品の一部になる」体験とも言えます。

❸所蔵作品を見ながら筋トレ=北九州市立美術館提供
❹ハムスターの着ぐるみを着る=北九州市立美術館提供

 こうした通常の展覧会ではやらないような活動が設定されている理由のひとつには、本展が掲げている「美術館で遊ぶ、美術館を遊ぶ」というキーフレーズがあります。

 ワークショップを楽しみ、美術館「で」遊ぶのはともかく、美術館「を」遊ぶとはどういうことでしょうか。

 それは、展覧会ではありえないと思われがちな行動をあえてしてみることで、美術館という場そのものを問い直す試みです。たとえば、岩を砕いて砂場の砂を作る「今日の遊び場」=同❺=では、ハンマーとノミで岩をたたくカンカン、ゴンゴンという、美術館らしからぬ音が響き渡っています。「美術館でこんなことしていいとは思いませんでした」という声も聞かれますが、展覧会は静かに鑑賞しなければならない、という「当たり前」から一旦外れてみることが、美術館とは何かを改めて考えるきっかけとなります。

❺岩を砕いて砂場の砂を作る「今日の遊び場」=北九州市立美術館提供

 さらに、各ワークショップの背景には、ちょっとした意見の違いで起こる分断や、わたしたちの身の回りにあるルール、ジェンダー間のアンバランスなど、これまで中島さんが向き合ってきた社会的なテーマがあります。

 もちろん、本展によって、現実社会の問題に明確な答えが出るわけではありません。しかし、いつもとは違った視点から日常を見つめることによって、何らかの気づきを得てそれを持ち帰る、それがワークショップという手法の大きな特徴です。

 本展ではすでに、岩を砕くことに没頭し、無心でツタを編み続けることで、長時間滞在する方も多く見られます。そうする中で、結論がすぐに出ない問題についてアーティストとじっくり対話する時間、それこそが本展の最大の魅力と言えるでしょう。

 ■人物略歴
 ◇中島佑太(なかじま・ゆうた)さん
 前橋市生まれ。2008年、東京芸術大学美術学部先端芸術表現科を卒業。一貫してワークショップを表現手段とした活動を続け、ルールやタブー、当たり前だと考えられていることの書き換えを試みている。

INFORMATION

中島佑太 だれかと逃げ出せグーチョキパー!

会期   8月31日(日)まで。
     ※月曜休館。ただし、11日(月・祝)は開館し、翌12日(火)が休館。
会場   北九州市立美術館(本館)
     戸畑区西鞘ケ谷町21の1、093・882・7777
観覧料  一般800円、高大生600円、小中生500円=一度購入すれば、何度でも入場できるパスポート制。
主催   中島佑太展実行委員会(北九州市立美術館、毎日新聞社)
後援    九州旅客鉄道、西日本鉄道、北九州モノレール、筑豊電気鉄道
特別協力 アート引越センター、アートチャイルドケア、グローバルピッグファーム、FROM FACTORY KITAKYUSHU

2025年8月8日 毎日新聞・西部朝刊 掲載

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