「第76回毎日書道展」には外国の人々の姿も。書は世界のアートになれるのだろうか?=東京都港区の国立新美術館で7月、小林努撮影

【この1年】書 万博から世界に発信

文:桐山正寿(毎日新聞記者)

 2025大阪・関西万博「白と黒の伝統―書と囲碁の世界―」が6月6~8日、万博会場内のEXPOメッセ「WASSE」北側で開かれ、エントランスエリア、展示エリア、体験エリア、イベント広場の計約2000平方㍍に3日間で約2万2000人が訪れた。「現代の書」の多彩な展開について、世界に向けて発信した。

 大正大学が創立100周年事業として、米ニューヨークのサテライトキャンパスでオープニングイベント「『日本の書』ニューヨーク展」を開いた。大学が主導した国際交流の仕掛けとして、これからの展開に期待が高まる。

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 充実期の書人による個展は強烈な個性の発露を感じさせた。第4回寺田白雲書展(3~4月)▽真下京子近作展(4月)▽加藤裕書展2025(8月)などだ。ほか、佐藤浩苑書展(5月)▽伊山宗紫書作展(9月)▽中野蘭芬書展(12月)などが開かれた。第6回金子大蔵書展(7月)▽第3回小野﨑啓太書作展(9月)など新世代の書人たちの意欲的な試みは、はつらつとした印象を残した。

 生誕100年記念 小林抱牛展(8月)は大作のほとばしる情熱に圧倒された。詩文書から小字数作品へと移行した希有(けう)な書人の足跡を、練り上げた構成でよみがえらせた。荒金大琳 書の世界 追悼展(10月)は、荒金が拠点とした別府で開かれ、真摯(しんし)な書作と学書の軌跡を浮かび上がらせた。

 第2回芙蓉三人書展(3月)は、遠藤枝芳さん(かな)、榛葉壽鶴さん(前衛)、大石千世さん(大字)と分野、会派を超えたベテラン書人の競演が、書の世界の広がりと書人たちの強い友情を見る者に訴えかけた。

 俊文書道会「書の発表会」が2001年の初開催以来、25回を迎えた。障害の有無を超えた四半世紀にわたる継続に心から拍手を送りたい。また「眼と指で楽しむ書の彫刻」も5回目を迎え、視覚障害者と共に歩みを進めている。

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 「比田井天来とその流れ」(3~6月、長野・佐久市立近代美術館、佐久市立天来記念館)と「戦後日本『新しい書』のかたち」(6~8月、成田山書道美術館)は時宜を得た好企画だった。今年は「戦後80年」。現代の書の多彩な展開を理解するために欠かせない視座を提供した。「極上の仮名 王朝貴族の教養と美意識」(6~8月、五島美術館)は、飯島春敬の収集品を通して学書の方法論、とりわけ目習いの大切さを実感させた。

 「書斎を彩る名品たち―文房四宝の美―」(7~8月、永青文庫)▽「早川清秘蔵コレクションによる文房四宝展」(7~8月、書宗院展特別展示、東京都美術館)▽「平安王朝美の再現者 田中親美と尾上柴舟」(10月、アートサロン毎日)は、文房四宝への関心を呼び起こした。

 中野北溟記念室が4月、札幌市教育文化会館2階にオープンした。102歳を迎えてなお、みずみずしく最先端の創作活動を続ける書人の姿には本当に圧倒される。

 鳥取県立美術館の開館を記念し「全国代表書作家展」(12月)が開かれた。展示作品は県に寄贈される。文化行政の貧困が叫ばれる中、書作品の収集という試みに乗り出した意欲に敬意を表したい。

 103歳だった竹内津代さんをはじめ、笠原和爽さん、佐川雲窓さん、宮澤梅径さん、小黒五稜さん、笹倉凌石さん、清原大龍さん、木村英峰さん、川﨑尚麗さん、植田清寛さん、鈴木邦子さん、大和久霽月さん、中原茅秋さんらが逝去した。

 「書の公募展100年」(10~12月、成田山書道美術館)が開かれた。今年は1925年に初めての書の公募展とされる日本書道作振会展が開かれて100年。公募展が現代の書に果たした役割を再検討する時期を迎えたようだ。戦後に澎湃(ほうはい)として起こった「現代の書」はどこへ向かっていくのか? 新しい令和の書が生まれるのか? その萌芽(ほうが)を大きく目を開いて追っていきたい。

2025年12月24日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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