2025年の建築界は、やはり大阪・関西万博抜きには考えられない。将来、何かの企画で今年を振り返るとき、会場デザインプロデューサーの藤本壮介が構想した大屋根リングのイメージは必ず使われるだろう。
開催前は激しい非難にさらされたが、いざ万博が始まると、実際に空間を体験した来場者の感想によって評価が反転し、閉幕後は残してほしいという声が目立つようになった。高い入場料を払った人しか見ていないわけだから、しばらくはそのまま保存し、無料で誰でも見られる期間を設けるべきだと筆者も思う。ちなみに、1970年大阪万博の丹下健三による大屋根が解体されたのは78年であり、その下でときどきイベントが行われた。
近代の万博は鉄の時代とともに始まったが、木や石などの自然素材が目立ったのは、今回の特徴だろう。SNS(交流サイト)時代の万博ゆえに、藤本や2億円トイレと揶揄(やゆ)された米澤隆らの設計者が、批判に対して直接、説明したことも話題になったが、建築家に全責任を負わせるのではなく、本来は日本国際博覧会協会の広報などが応えるべきだった。いかに情報公開していくかは、今後の課題である。
また、永山祐子がウーマンズパビリオンにおいて、自身が設計したドバイ万博の日本館の部材を再利用したほか、多くのプロジェクトが解体後のリサイクルを掲げたが、実現するには、法規制などのハードルが多く、これから整備が必要となるだろう。
銀座ソニーパーク(東京都中央区、監修はThe Archetype、設計は石本建築事務所)は、久しぶりに東京に誕生した挑戦的なプロジェクトだった。打ち放しコンクリートの粗野な表情もさることながら、東京の一等地でありながら、容積率を使い切らず、公園のようにパブリックな居場所を都市に提供している。
25年の日本建築学会賞(作品)を受賞した高槻城公園芸術文化劇場(大阪府高槻市、日建設計)は、木材を多用する街に開かれた公共施設だった。もうひとつの受賞作、天神町place(東京都文京区、伊藤博之)は、住民同士のほどよい距離感をつくる中庭をもつマンションである。グッドデザイン賞の大賞は、坂茂による箱型のユニットを積み上げる、能登の木造仮設住宅が選ばれた。彼はアメリカ建築家協会(AIA)のゴールドメダルも受賞している。
巨大プロジェクトでは、JR東日本が推進する高輪ゲートウェイシティ(東京都港区)が部分的に開業した。一方で建設費の高騰を受けて、中野サンプラザ(東京都中野区)の建て替えや、名古屋駅の大規模再開発などが見直しになり、こうした事態はほかにも続くかもしれない。
公共施設では、駅前広場と接続する垂水図書館(神戸市垂水区、フジワラボ+タト+トミトアーキテクチャー)など、図書館に注目すべき作品が認められた。平田晃久は、昨年の新潟県小千谷市ひと・まち・文化共創拠点ホントカ。に続き、群馬県太田市のエアリスベースでも、さまざまな居場所を提供している。大学の施設では、小堀哲夫による名古屋大学の東海国立大学機構Common Nexusは、屋根が大きく湾曲し、ランドスケープと一体化した開かれた空間だった。
モダニズム、あるいは倉庫や工場などのリノベーションは、世界中に成功例が数多く存在するが、そろそろクセが強いポストモダン建築がその対象となる時期を迎えており、興味深い事例が登場した。
例えば、丹下による横浜美術館のリニューアルでは、乾久美子がかわいらしい小さな什器(じゅうき)群を無数にちりばめることによって、巧みに空間を変容している。また青木淳が、岡山のビルを現代美術館に改造したラビットホールは、オリジナルの装飾的なデザインを部分的に残しつつ、壁や床をはがし、あえて未完成のような状態とし、使い続けるうちに変化するものとした。

今年は20万人以上の来場者を集めた「藤本壮介の建築:原初・未来・森」展(森美術館)ほか、山本理顕、安藤忠雄、内藤廣、磯崎新など、話題の展覧会が多かった。また、ひろしま国際建築祭2025が始まり、第1回は尾道と福山に複数の会場を設け、プリツカー賞を受賞した9人の日本人建築家の展覧会などが行われた。今後3年に1度開催するという。SANAAが会場デザインを担当した「ブルガリ カレイドス」展(国立新美術館)は、円弧を描く壁が連なる、彼ららしい印象的な空間を生みだした。
24年12月に美術館建築の名手で知られる谷口吉生、25年1月に京都駅ビルを手がけた原広司が逝去した。
◇今年の建築3選
①大屋根リング(大阪・関西万博)
②銀座ソニーパーク(東京都中央区)
③ラビットホール(岡山市北区)
2025年12月18日 毎日新聞・東京夕刊 掲載