フィンセント・ファン・ゴッホ「画家としての自画像」(1887~88年)=ファン・ゴッホ美術館、アムステルダム(フィンセント・ファン・ゴッホ財団)所蔵

【ART】
東京都美術館でゴッホ展
異才を刺激 創作の数々

文:広瀬登(毎日新聞記者)

西洋美術

 アムステルダムのファン・ゴッホ美術館は、世界でも有数のフィンセント・ファン・ゴッホ(1853~90年)のコレクションを誇る。絵画約200点に加え、素描は500点、手紙は900通。同地を訪れたら、必ず足を運びたいスポットだ。1973年開館の同館の歴史をひもとけば、その源は弟テオからその妻のヨーへ、さらに二人の息子のフィンセント・ウィレムへ受け継がれたファミリーコレクションにさかのぼる。

 東京都美術館で開催中の「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」は、ゴッホ美術館所蔵の30点以上の作品を中心に初期から晩年まで全5章で画業をたどる。

 ゴッホの自画像の中でも代表的な「画家としての自画像」、南仏アルル滞在期の「浜辺の漁船、サント=マリー=ド=ラ=メールにて」、大胆な構図の「種まく人」といった有名作が並ぶ中、会場でまず見るべきは第2章。ゴッホ兄弟が手元に置き、めでた絵描き仲間の油彩画、創作のヒントにしたであろう挿絵入り新聞の版画や日本の浮世絵が展示される。

 お気に入りだったジョン・ピーター・ラッセルによるゴッホの肖像画から始まる同章では、例えば、エルネスト・クォストの「タチアオイの咲く庭」やマシュー・ホワイト・リドリーの「坑夫」(「民衆の顔Ⅵ」、「グラフィック」紙より)が目を引く。前者は、その淡い色彩の透明な空気感がゴッホのパリ時代の「アブサンが置かれたカフェテーブル」や「モンマルトル:風車と菜園」に通じ、後者のランプの光に照らされた陰影深い顔の表情は初期作品の「女性の顔」や、今回は日本に来ていないがゴッホ美術館所蔵の「ジャガイモを食べる人々」を思い起こさせる。

エルネスト・クォスト「タチアオイの咲く庭」(86~90年)=ファン・ゴッホ美術館、アムステルダム(フィンセント・ファン・ゴッホ財団)所蔵

 この章をじっくり鑑賞しておけば、同時代の画家たちの作品から養分を吸いながら、ゴッホが自らの画風を確立し、飛翔(ひしょう)していった様が手に取るように分かる。より立体的にゴッホの独創性が迫ってくるのだ。今展の鍵と言えるだろう。12月21日まで。土日・祝日と12月16日以降は日時指定予約制。

INFORMATION

「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」

会期 2025年9月12日(金)—12月21日(日)
   ※土日、祝日および12月16日(火)以降は日時指定予約制
会場 東京都美術館
   〒110-0007 東京都台東区上野公園8−36

2025年9月29日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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