忘れられた「金メダリスト」の作品をまとめて見られる貴重な機会--。大阪・関西万博の開催に合わせ、京都市右京区の福田美術館と嵯峨嵐山文華館で特別展「万博・日本画繚乱(りょうらん)-北斎、大観、そして翠石(すいせき)-」が開かれている。1851年のロンドン万博以降、海外の万博に参加した葛飾北斎、横山大観、竹内栖鳳(せいほう)、上村松園らの作品計約100点を集めた。当時の出展作は行方が分かっていないものがほとんどで、本展では参加画家の他の作品が並ぶ。
注目は、1900年のパリ万博で、日本人画家で唯一の金賞を獲得した日本画家、大橋翠石(1865~1945年)の虎図だ。
翠石は岐阜県大垣市出身。パリ万博では大観や栖鳳らを抑えて、新人だった翠石が金賞に輝く。04年の米セントルイス万博でも金賞を受賞し、名声を博した。しかし後年は結核を患い、神戸・須磨に隠せいし、画壇に所属しなかったことや内気な性格もあり、死後は忘れられた存在となった。福田美術館の岡田秀之学芸課長は「生前と現在とで最も評価が違う画家といえる」と説明する。本展では前後期合わせ、両館で計36点を展示。後期展では29点が見られる。
福田美術館の展示で目を引くのが「猛虎之図屛風(びょうぶ)」(32年)だ。右隻には、雌に歩み寄る雄の虎が、左隻では子虎に乳をやる母虎と穏やかな目で見守る父虎が描かれている。本作は翠石が結婚する娘に贈ったとされる作品で、親子の愛情がにじむ。文華館では「悲憤」(08年)が印象的だ。右隻には必死の形相で左隻に向かい走る2匹の虎。左隻には子虎をくわえ、飛び去るワシが描かれている。親虎たちのやるせない怒りと悲しみが伝わってくる。
このほか猫好きだった翠石が描く愛らしい猫の作品なども並ぶ。動物の微細な毛並みを再現するため、筆を自作し、迫真の表現を実現した。リアルなだけではなく、動物たちの喜怒哀楽を捉えた表現こそが翠石の魅力といえる。
既に京都画壇の第一人者だった栖鳳(当時は棲鳳)は、パリ万博では銅賞にとどまった。翠石の金賞に発奮したのか、パリでは動物園に通い、ライオンなどを写生。帰国後は雅号を棲鳳から栖鳳に改め、見事な動物画をものした。本展でも「猛虎」(30年)などが見られる。28日まで。

2025年9月22日 毎日新聞・東京夕刊 掲載