「サマーナイト」ティーサービス(1974年ごろ~)=個人蔵

 ロイヤルコペンハーゲンやウェッジウッド、KPM、ヘレンドなどあまたの欧州の名窯の中でもマイセンほど人気のブランドはないだろう。柔和な光を放つ白磁に滑らかな青の染め付け、空間と自然になじむフォルム、そして2本の剣が交わる誇り高きマーク--ドイツ東部の磁器製作所は、300年以上にわたり一頭地抜けた名門として君臨してきた。

 その伝統に新たなページを加えたのが、1960年に結成された「芸術の発展を目指すグループ」だ。中でも絵付師のハインツ・ヴェルナー(28~2019年)は、文学や自然に想を得た繊細な作風で一時代を築いた。泉屋博古館東京で開催中の特別展「巨匠ハインツ・ヴェルナーの描いた物語(メルヘン)」は、現代マイセンの名品を送り出した匠(たくみ)の業績を展観、唯一無二の磁器芸術をことほぐ。

 まずプロローグ「名窯の誕生」で日本の「柿右衛門様式」がマイセンに与えた影響が紹介される。1710年に王立磁器製作所を設立したアウグスト強王は東洋磁器の愛好家。洋の東西の融合こそマイセンの源だ。続く第1章「磁器芸術の芽吹き」にはグループ結成前後の若きヴェルナーの秀作が並ぶ。優しい筆致と色彩が後年の作風を予言する。

 今展のメインとなるのが第2章「名シリーズの時代」。1960~70年代、ヴェルナーの技が花開いたエポックだ。「ミュンヒハウゼン」「アラビアンナイト」「サマーナイト」といった、いにしえの物語の名を冠した作品群では、金色の硬質な縁取りの内に淡い彩りの夢幻世界が広がる。「狩り」や「ブルーオーキッド」のシリーズでは花や草木の生命が絵筆に伝わり、白磁の上で躍動する。

 一つ所にとどまらないのが匠の証し。第3章「光と色彩の時代」では、80年代に入り具象から面と線、色が交差するスタイルへ変容するさまに、また晩年の作品が並ぶエピローグ「受け継がれる意志」では、自身の創作童話による「ドラゴンメロディ」など、還暦を過ぎても光る創意に目を見張る。マイセンの歴史に残したその足跡は今、輝きを増すばかりである。11月3日まで。

「ドラゴンメロディ」コーヒーサービス(94年)=個人蔵

2025年9月8日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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