小田香「母との記録『働く手』」(2025年)=小松やしほ撮影

【ART】
多種多様な記録の形 恵比寿映像祭2025

文:小松やしほ(毎日新聞記者)

映像作品

 映像とアートのフェスティバル「恵比寿映像祭2025」が開幕した。今年、総合開館30周年を迎える東京都写真美術館(東京・恵比寿)を主会場に、11の国・地域から39人の作家が参加し、映像上映や作品展示、ライブパフォーマンスなどが行われる。

 今年のテーマは「Docs-これはイメージです-」。Docsは造語で、ドキュメント、ドキュメンタリーに由来し、「コミッション・プロジェクト」のファイナリスト4人の作品が、いずれも違った形のドキュメンタリーだったことに着想を得た。

 3階の展示室ではファイナリスト4人の新作を見せる。牧原依里さんの「三つの時間」は、収録された映像と別の場所から生配信されている映像、展示室の生映像の三つの映像が交錯する。小田香さんの「母との記録『働く手』」は、自分が知らなかった母の人生を聞き取り、記録した。小森はるかさんは「春、阿賀の岸辺にて」で、新潟水俣病患者の支援を50年以上続けてきた男性にカメラを向けた。永田康祐さんの「Fire in Water」は、日本の統治時代に韓国の酒造がいかなる影響を受けたかについてのリサーチを基に、文化の衝突や同化を考えさせる。

 プライベートに材を取ったものから、よりパブリックに、そして国家的に。主題の広がりを追うような展示構成は、ドキュメンタリーの定義の包摂性を感じさせる。

 <身体、時間、パフォーマンス>をキーワードにした2階には、女性の労働問題を、自らの体を使い表現するカウィータ・バタナジャンクールさんの作品や性的マイノリティーの権利獲得に挑んだイトー・ターリのアーカイブなどが並ぶ。地階は<イメージ、言葉、神話>がキーワード。神話に登場する大洪水のイメージの伝承を探る台湾出身の劉玗(リウ・ユー)さんや、藤幡正樹さんのメディアアート作品などが展示されている。

イトー・ターリのアーカイブの展示風景=小松やしほ撮影

 誰もが写真や映像を発信できる時代に、改めてドキュメンタリー(記録)とは何かを考えさせる。16日(コミッション・プロジェクトは3月23日)まで。

2025年2月10日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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