ヨゼフ・ミューラー=ブロックマンが69~72年に制作した「チューリッヒ管弦楽団 ムジカ・ヴィヴァ・コンサート」ポスターの展示風景=山田夢留撮影

 ◇連れ添う2人の「Space」

 スイスを代表するグラフィックデザイナーでタイポグラファーのヨゼフ・ミューラー=ブロックマン(1914~96年)と、その妻で芸術家の吉川静子(34~2019年)。パートナーとして支え合いながら、それぞれの領域で表現を追究した2人の作品を紹介する展覧会が、大阪中之島美術館で開かれている。

 ミューラー=ブロックマンは、現在もグラフィックデザインの基本書として読み継がれる理論書「グリッドシステム」で知られる。一方、スイスで活動した吉川の国内での知名度は低く、大規模な展覧会は初めてという。展示は吉川の130点に及ぶ立体・絵画作品から始まる。

 吉川は福岡県に生まれ、現在の筑波大で建築やデザインを学んだ後、渡独。ウルム造形大では初の日本人女性として学び、63年、チューリヒへ移ってミューラー=ブロックマンのスタジオでグラフィックデザイナーとなった。67年に結婚後はデザインからアートへ転じ、立体彫刻から平面へ展開しながら、色と形をストイックに追究。80年代末からはキャンバスに十文字を描くシリーズを手がけた。

 補色関係にある線が小さな空白を挟んで向かい合う十文字はリズミカルに配置され、半透明の絵の具で描かれた影のような十文字が奥行きを生む。円形キャンバスのシリーズは「宇宙の織りもの」。十文字を離れた晩年は、カラフルな円や四角を画面に散らした「生命の脈動」シリーズを手がけた。平井直子主任学芸員は「非常に思索的な作品。色や形を哲学的に追究する中で、宇宙の神秘や世界の英知といったものとつながりを感じていたのだと思う」と話す。最後のシリーズ「自分の中心に目を向ける」(16~17年)では、時計回りに小さくなっていく円を描いた。

「m465 宇宙の織りもの-流れるように 11」(吉川静子、1995年)=山田夢留撮影

 ミューラー=ブロックマンの展示室では同館所蔵のポスター作品を中心に、約60点を展示。69~72年に制作したコンサートのポスターはシンプルな文字だけを用いつつ、その色と配置で鮮やかな印象を残す。展覧会のタイトルは「Space In−Between :吉川静子とヨゼフ・ミューラー=ブロックマン」。「Spaceはそれぞれの作品の肝でもあり、2人の独立した関係を示してもいる」と平井さん。3月2日まで。

2025年1月27日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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