寝室(手前)から茶の間などを望む。風が吹き抜ける=尾籠章裕撮影

 東西南北に風の通り抜ける建物がある。新宿区立林芙美子記念館だ。「浮雲」「放浪記」などで知られる作家・林芙美子が1941(昭和16)年からその生涯を閉じる51年まで過ごした居宅。都心の閑静な住宅街にたたずむ。

 数寄屋風の平屋建てで、2棟構成。夫で画家の手塚緑敏(りょくびん)のために作られたアトリエがある西側の棟と、東側の生活棟で構成されている。芙美子が自ら建築を学んだといい、その美意識が反映されている。

 茶の間は日当たりも庭の眺めもよく、広縁があるため開放感にあふれる。一家だんらんの場所として大切にされたという。名作を生み出す場となった書斎は、元は納戸として作られた。そのため洋服入れ、物入れなどが壁に使いやすく配置されている。台所の流しは小柄な芙美子の体格に合わせ、低めに設計された。

芙美子が執筆に明け暮れた書斎=尾籠章裕撮影

 客間よりも茶の間や風呂、台所などの生活空間を重視した。そのこだわりの住まいを前にすると、芙美子が過ごした時代の雰囲気が伝わってくる。

ヒノキ風呂は落ち着いた風情を醸し出す=尾籠章裕撮影

2026年1月4日 毎日新聞・日曜くらぶ 掲載

シェアする