チェ・ゼフン「スイカオ」=本人提供

【KOGEI!】
陶による豊かな交流

文:外舘和子(とだて・かずこ=多摩美術大学教授)

工芸

 昨今の国際状況は晴れやかとは言い難いが、2026年はなんとか好転してほしいと世界中の善良な市民は願っていることだろう。そうした時代、文化や芸術の交流は、さまざまな国の人々が互いに共感し、刺激し、学び合う姿勢を育むのではないか。

 例えば、土で形を作り、焼成する「陶芸」は、世界各地にそれぞれの歴史や文化があるグローバルな領域である。特に日本は、花器や茶陶、食器から抽象的なオブジェや具象的造形まで、幅広い陶芸表現が求められ、海外出身の陶芸家にとっても望ましい環境のようだ。実際、多様なタイプの海外出身作家が、日本に住み、活躍している。

 筆者が企画監修し、2月19日から3月1日まで東京・銀座のセイコーハウスホールで開催される「華やぎの工芸-陶芸の国際性-」では、そうした作家たちの中から作風の異なる4人を紹介する。アメリカ出身で兵庫県在住のピーター・ハーモンは端正な彫文様のある磁器の作品を日本伝統工芸展や新匠工芸会展で発表し、自宅には茶室を設けている。ハンガリー出身で長野県在住のアーグネス・フスは、帯状に延ばした土を巻きつけるなど独自の手法で、オブジェや茶碗(ちゃわん)、水指などを制作している。韓国出身で愛知県立芸術大学教授のチェ・ゼフンは、日本の衛生陶器メーカーでの勤務経験を生かし、型成形ならではのデザイン磁器を展開してきた。同じく韓国出身のハ・ミョングは、生きもののイメージを明るく吉祥的な陶の造形で表現し、埼玉県の丸沼芸術の森所属作家として日韓の交流にも尽力している。

 「日本には陶芸の居場所がある」とアーグネス・フスは言う。一つには和食器の種類の豊富さがあり、和食のユネスコ無形文化遺産認定には、食材の扱いや出汁(だし)の文化だけでなく、色や形の多様な和食器の存在も貢献していよう。また日本の陶芸は茶道や華道とも深い繫(つな)がりがあり、茶陶や花器の制作が積極的に求められてきた歴史がある。多様な組み合わせを楽しむ姿勢は、和食器にも茶道にも通じる。茶陶は単に茶を飲む「道具」ではなく、茶席で鑑賞するための「作品」でもある。日本では美術館や展覧会などの制度が成立するはるか以前から、茶席において優れた茶碗や水指、茶入(ちゃいれ)、香炉、香合、更には金工の釜や掛け軸などを鑑賞し、その取り合わせを楽しんできた。その意味では千利休のような茶人は、今日のキュレーターのごとき存在であった。

 そうした茶道成立の背景にある茶葉の扱いや喫茶の習慣は、日本人が歴史の中で中国から学んだものである。日本のやきものの技術も長い間、中国や朝鮮半島が手本であった。また戦後、信楽や備前に来日し、作陶したアメリカ人女性陶芸家たちが、それまで「火の神様が女性の穢(けが)れを嫌う」として遠ざけられていた日本の女性たちを、陶芸、特に薪窯(まきがま)の世界に導いた影響も重要である。

 暴力や武力の行使は、物も人も、人の心も破壊するが、文化・芸術の交流は人々を豊かにし、さまざまな創造の源泉となる。どちらに力を入れるべきか、迷う余地はないだろう。

2026年1月12日 毎日新聞・東京朝刊 掲載

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