特別展「モダン都市生活と竹久夢二-川西英(ひで)コレクション」が28日、京都国立近代美術館(京都市左京区)で開幕する。創作版画家の川西英が集めた膨大なコレクションから、大正期の大衆文化を彩った竹久夢二や、夢二に憧れた川西や恩地孝四郎など昭和期の画家・版画家の作品を紹介する。本展の見どころを、梶岡秀一・同館学芸課長に寄稿してもらった。
◇幸福な世界への祈り 梶岡秀一・学芸課長
竹久夢二は、いわゆる夢二式美人画を生み出した画家として今も人気である。目の大きな、物思うような女性像である。典型例として「セノオ楽譜 №44 蘭燈」がある。作品名からもわかるようにこれは楽譜だが、彼は表紙に絵を描いただけではない。絵に合わせて文字も書き、収録された楽譜の作詞も手がけた。詩と書と絵の調和である。彼は詩人でもあり、詩を絵によって表現したいと考えていた。
また彼は、美術と生活を融和させたいとも考えていた。そんな彼が制作したのは、展覧会場で観衆を威圧する大きな芸術ではなく、手に取ってみたくなるような小さな芸術。封筒や便箋、千代紙など日用品をデザインして販売し、生活に美術を取り込もうとしたのである。
そうした商品を販売するため、東京の日本橋に港屋という店を開いた。彼の版画「港屋絵草紙店」はそれを記念するような作品。洋風の橋や建築が並ぶモダンな街を行き交うのは、和装や洋装の華やかな男女。右側にみえるのは、港屋の入り口にかかっていた大きな提灯(ちょうちん)である。

今回の展覧会では、夢二が手がけた版画やポスターのほか、楽譜、書籍、封筒、絵はがき、手ぬぐい、風呂敷、千代紙など多数をご覧いただく。すべて神戸で生まれ育った版画家の川西英が収集したものである。彼は新聞や雑誌に掲載された夢二の絵に心ひかれ、港屋の商品を買ったり、夢二本人と文通したりしながらその作品を熱心に収集した。川西が編んだ夢二作品スクラップブック(貼交帖(はりまぜちょう))など、夢二マニアとしての彼の情熱を伝える資料も展示する。
併せて、川西自身の作品や彼の仲間だった版画家たちの作品も取り上げる。作品に描かれているのは、夢二を敬愛した大正・昭和の人々が生きた都市や観光旅行先などである。この時代、都市文明には光と影があり、百貨店や劇場、公共交通は人々に快適な生活や娯楽をもたらしたが、同時に、都市の豊かさを享受できる者とできない者との格差を突きつけていた。誰もが等しく幸福であってほしいという思いが夢二の絵には込められているが、川西とその仲間たちもその思いを受け継いだといえる。



夢二の芸術には、モダン化・都市化の時代に戸惑う庶民のための、幸福への祈りがある。そのあたりも感じ取っていただければ幸いである。
INFORMATION
特別展「モダン都市生活と竹久夢二-川西英コレクション」
<会期> 28日(土)~6月21日(日)。月曜休館(5月4日は開館)。入館10時~17時半(金曜は19時半まで)
<会場> 京都国立近代美術館(京都市左京区岡崎円勝寺町、電話075・761・4111)
<観覧料> 一般1800(1600)円▽大学生1100(900)円▽高校生以下・18歳未満無料。※カッコ内は前売り、20人以上の団体、金曜18時以降の割引料金。
※詳細は、展覧会公式ホームページをご確認ください。
主催 京都国立近代美術館、毎日新聞社、京都新聞
協賛 DNP大日本印刷
2026年3月25日 毎日新聞・大阪朝刊 掲載