「蝋燭」大正時代 福岡県立美術館蔵=提供写真

 「没後50年 髙島野十郎(やじゅうろう)展」が25日、大阪中之島美術館(大阪市北区)で始まる。独創的な写実表現を極めた洋画家の過去最大規模の展覧会で、大阪で回顧展が開かれるのは初めて。初公開作も含め、初期から晩年までの作品160点超をテーマ別に6章構成で紹介し、画業と人物像に迫る。

 ◇生と死 光と闇

 髙島野十郎(1890~1975年)は、福岡県久留米市出身。酒造業を営む裕福な家庭に生まれ、東京帝国大(現東京大)農学部水産学科を首席で卒業。しかし、周囲の期待に反して、独学で絵の道に進んだ。当時としては珍しく、特定の美術団体に所属せず、画壇とは距離を置いて制作に打ち込んだ。

 生涯独身を貫き、晩年は千葉の郊外で晴耕雨読の生活を送った。そんな創作姿勢や作風から「孤高の画家」として知られるが、本展では友人知人との交流にも触れ、「孤高」ではあっても「孤独」ではなかった野十郎の新たな一面を浮かび上がらせる。

 出展作のうち、個人蔵の作品が多いのも、野十郎が愛された画家だった証しの一つといえる。生前は無名だったが、死後、故郷の福岡県立美術館での展示をきっかけに再評価され、現在では各地で回顧展が開催されるなど全国区の人気画家となった。これも作品を大切に保管し、守ってきた支援者らの存在があってこそだった。

 若い頃から仏教に親しみ、仏典を読み込んだ野十郎の作品には、静物画や風景画にも仏教的な無常観や生命観が表れる。「海辺の秋花」(1953年ごろ)は、海を背景にコスモスなど秋の花が咲き誇る脇で枯れた2本のヒマワリが目を引く。流れゆく季節と共に輪廻(りんね)転生のテーマも感じさせる。

「海辺の秋花」1953(昭和28)年ごろ 個人蔵=提供写真

 「さくらんぼ」(57年)はみずみずしいサクランボの実を描いた中に、手前の一つだけ腐りかけ黒く変色した実を配置し、生と死を浮かび上がらせる。それらは光を通じて闇を描こうとした代表作の「蝋燭(ろうそく)」や「月」などで、より鮮明となる。

「さくらんぼ」1957(昭和32)年 個人蔵=提供写真

 「慈悲」もまた、作品を読み解くキーワードだ。<花一つを、砂一粒を人間と同物に見る事、神と見る事>(「遺稿ノート」)と記すように、野十郎にとって、丹念に描き込んだ作品は「慈悲の実践」だったといえる。それゆえ作品の細部にまで生命が宿り、見る者の心を揺さぶるのだろう。

 本展は岸田劉生をはじめ、同郷の青木繁、坂本繁二郎、古賀春江ら影響を受けたり、交流があったりした画家の作品も併せて展示し、野十郎が自身の画風を確立させていく道筋を同時代の美術史の中で捉え直した点も重要だ。6月21日まで。

「月」1963(昭和38)年ごろ 個人蔵=提供写真
「からすうり」1935(昭和10)年 福岡県立美術館蔵=提供写真

 ◇又吉さん短編も 充実図録

 公式図録=写真=は、全出品作品のカラー図版、論文やコラムを多数収録した充実の一冊です。本展広報大使の又吉直樹さん(お笑い芸人、作家)が書き下ろした短編小説も収録しています。
 会場のほか、通販サイト「まいにち書房」でも販売しています。1冊3000円(税込み、送料別)。

INFORMATION

没後50年 髙島野十郎展

<会期>  3月25日(水)~6月21日(日)。月曜休館(ただし4月27日、5月4日は開館)。入場は午前10時~午後4時半。
詳細は美術館公式サイト(https://nakka-art.jp/exhibition-post/yajuro50/)をご確認ください。
<会場>  大阪中之島美術館4階展示室(大阪市北区中之島4)
<観覧料> 一般1800(1600)円 高大生1200(1000)円。カッコ内は前売りおよび20人以上の団体料金

主催    大阪中之島美術館、毎日新聞社
協賛    大和ハウス工業
協力    ブルーミング中西
問い合わせ 06・4301・7285(大阪市総合コールセンター、年中無休、午前8時~午後9時)

2026年3月20日 毎日新聞・大阪朝刊 掲載

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