1987年に米ワシントンで開館した米国女性美術館(NMWA)は、女性アーティストの作品を専門的に収集・展示する。活動の一環として、世界各地の優れた女性作家を紹介する国際プログラム「Women to Watch」を数年ごとに開催してきた。その連動企画展が、東京・表参道ヒルズにあるギャラリー「AND COLLECTION」で開かれている。
日本がプログラムに参加するのは2回目で、今回の共通テーマは「A Book Arts Revolution」。入江早耶▽風間サチコ▽宮永愛子▽村上華子▽米田知子--の各氏による「本」をめぐる作品が並ぶ。5人を推薦した国立新美術館の神谷幸江学芸課長は「人間と知識の関わりである本をさまざまに解釈し、解体した作品」と紹介。5人は世代も拠点もアプローチも異なるが、「社会に対して知的な問いかけをしている」と語る。
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最年少の入江さん(83年生まれ)は、印刷された図版を消しゴムでこすり、その消しかすを固めて元のイメージを立体にする。今展では野鳥図鑑を素材に、さまざまな鳥を三次元によみがえらせた「バードダスト」シリーズを発表。いったん消し去られた図像は平面の枠を超え、より自由な姿で新たに構築される。軽やかな作風の一方、破壊から再創造に至るそのプロセスは、作家の拠点である広島が原爆投下による喪失から立ち上がってきた歴史にも重なる。
ロンドンで暮らす写真家の米田さん(65年生まれ)は、代表シリーズ「見えるものと見えないもののあいだ」から3点を展示。20世紀の知識人が実際に使っていた眼鏡のレンズ越しに、当人が見ていたであろう文章や資料を撮影したもので、会場にはガンジーやサルトルにまつわる写真が並ぶ。彼らのまなざしを作家の目は捉え、そこに鑑賞者の視線が加わる。何層にも重なる記憶をモノクロームのイメージは映し出す。

ガラスの本を制作したのは京都在住の宮永さん(74年生まれ)。透明な本の中には無数の気泡、そして数字が閉じ込められている。その数字は潮の満ち引きの差が最も大きくなる「大潮」の日付を作家が長年記録したものだ。月と太陽と地球の距離によって生じる海面の動きを、日常生活で意識することはほとんどない。知っているようで知らない、でもずっと昔から続く時間が詩的に紡がれる。
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本は私たちの内なる凍った海を砕くための斧(おの)でなければならない--。そう表現したカフカの言葉を神谷さんは引き、<彼女たちが作り出すのは、記された歴史、記録、物語を超えて、私たちの視点を新たな思索の海へと誘ってくれるもの>とステートメントにつづる。「自分や自分の国のことしか考えないような今の世の中で、こういう機会を通して『他者を知る』『知らないものを知る』ということのチャレンジに気づいてもらえたら」と話す。
29日まで。4月に代表作家1人がNMWAによって選出され、2027年に米国で開催予定の「Women to Watch 2027」展に参加する。
2026年3月18日 毎日新聞・東京夕刊 掲載