パリの街並みを描く画家として知られる荻須高徳(1901~86年)。荻須が晩年に取り組んだリトグラフの画業を紹介する特別展「荻須高徳 リトグラフ展-稲沢市荻須記念美術館コレクション-」が開催中。稲沢市荻須記念美術館の木全裕子学芸員に展覧会のみどころを寄稿してもらった。
◇油彩画家・荻須高徳とリトグラフ
稲沢市に生まれ、パリを50年以上描き続けた荻須高徳は、油彩画家として円熟期を迎えた60代後半、新たにリトグラフに挑戦し、油彩画同様パリの街角を題材として、亡くなるまでの約20年間に166点のリトグラフを制作しました。リトグラフ特有の描画工程や、主題を色版に分解し、透明インクを重ねる刷りの工程に荻須は強く興味を引かれたようで、次々と魅力的なリトグラフを制作し、その油彩画の作風にもリトグラフからの影響と新たな展開が見られます。本展では118点のリトグラフから、版画家としての荻須の画業を体系立てて紹介します。
◇多彩な荻須リトグラフの魅力
荻須のリトグラフは作品ごとに多様な表現や異なる魅力があります。パリの街角を黒一色で描く最初期の作品では、油彩画だと絵具の下に隠れて見えない、荻須の力強い描線や、確かなデッサン力が目を引きます。続いて挑戦したカラーリトグラフはみずみずしく爽やかで、赤や青などのアクセントカラーが溶け込んだ「灰色のパリ」や、強い光が建物や水面に反射した「陽光のヴェネツィア」など、その土地の風土を伝えます。また建物の壁の汚れやそこに暮らす人々の姿には、生活に寄り添いながら描いた荻須の愛情を垣間見ることができます。

◇荻須のリトグラフ制作風景
荻須がリトグラフを制作した頃、パリはリトグラフの大ブームを迎え、多くの芸術家が工房に通い制作しました。油彩画制作は独りアトリエでカンヴァスに向かう内省的な行為ですが、リトグラフは工房で多くの画家仲間や職人と互いの制作風景を見て意見を出し合いながら制作することが多く、円熟期の荻須にとって画学生時代のように楽しく刺激的な時間だったようです。職人に任せてしまう画家もいるリトグラフの色版作りを荻須は全て自分で行い、刷るインクの色や重ねる順番にもこだわって、油彩画同様妥協せずより良い表現を求め続けました。

INFORMATION
特別展「荻須高徳 リトグラフ展-稲沢市荻須記念美術館コレクション-」
<会 期>12月7日(日)まで。前期=11月16日(日)まで、後期=11月18日(火)から。
9時半~17時(入館は16時半まで)。月曜(祝日は開館)と11月4日(火)・27日(木)休館
<会 場>稲沢市荻須記念美術館(愛知県稲沢市稲沢町前田365の8)
<公式HP>https://www.city.inazawa.aichi.jp/museum/
主催 稲沢市、稲沢市教育委員会、稲沢市荻須記念美術館
共催 毎日新聞社
2025年11月7日 毎日新聞デジタル 掲載