縦一列に壁に取り付けられた薄い箱状の立体。物語性や作者性を排したドナルド・ジャッド(1928~94年)の作品は、60年代に米国で展開された「ミニマルアート」の文脈で捉えられることが多い。だが本人が否定したように、ジャッドの芸術はそうした過去の動向にくくられるものではない。彼は自分だけのスタイルでつくることをアートで実践し続けた。その思考に触れる「ジャッド-マーファ」展が東京都渋谷区のワタリウム美術館で開かれている。
2階展示室の冒頭を飾るのは、風景を描いたような一枚の絵。55年の貴重な初期作だ。ジャッドは50年代、画家としてキャリアをスタートさせた。この部屋に飾られた当時の絵画5点からは、次第に抽象化する画面の中、色と形が強調されていくさまがうかがえる。
60年代になると、単純な幾何学的形態を取り入れ、アルミやアクリル樹脂など工業素材を用いた立体の制作へと向かう。背景には絵画を巡る「イリュージョン」の問題があった。人間の視覚は二次元の平面に三次元の奥行きを認識しようとする。ジャッドはそれを乗り越えようと、物そのものが現実空間の中にあらわれる立体表現に期待したのだ。
やがてその関心は、作品と空間の関係性を重視する「恒久展示」のアイデアへと発展する。68年、ニューヨークのビルを購入して展示スペース兼アトリエに改装。73年にはメキシコにほど近いテキサス州の町マーファに拠点を移す。「芸術をその場限りのパフォーマンスにしてはならない」という信念の下、町に残る建物を再利用し、展示空間と生活空間を共存させる場へとリノベーションした。

「彼は色と空間を経験するという自分のスタイルを生み出した」とジャッド財団共同代表のフレイビン・ジャッドさんは言う。4階の展示室にはマーファにある複数の建物の設計図やドローイング、映像資料が並び、作家の理想を形にした空間へと見る者の想像をかき立てる。6月7日まで。
2026年4月6日 毎日新聞・東京夕刊 掲載