港北水再生センターで処理された汚泥を使ったレンガの作品 Photo:Akihiro Itagaki(Nacasa & Partners)

 みなとみらい線新高島駅(横浜市西区)構内の「BankART Station」など、現代アート発表の拠点運営を2024年度に終えたNPO法人「BankART(バンカート)1929」(代表・細淵太麻紀さん)が、拠点を持つことから一歩踏み出す活動を始めた。その新たな姿勢を示す第1弾として企画したのが、保良(やすら)雄(たけし)さんの個展「TOTEM ORGA(H)/トーテムオルガ」だ。

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 会場として選んだのは、横浜市港北区の下水処理施設「港北水再生センター」。保良さんは畑を持っていることもあって、有機物がどう分解されるのかに興味を持ち「都市の中の人間の排せつ物やごみの処理施設などで展示をしてみたいと思っていた」と話す。タイトルの「オルガ」は「ORGAN=臓器」のもじりで、「都市は人工臓器のようなもの」という考えから着想したという。汚水を再生処理する下水処理施設の循環を内臓のそれに見立て、施設に存在する微生物や汚泥、再生水などの各要素の関係性にも焦点を当てる。

 本展は稼働中の施設を使うため、事前申込制のツアー形式を取る。処理水を利用したコイの鑑賞池に始まり、下水管を通ってきた生活排水が最初に集まる沈砂池、下水をくみ上げる中央ポンプ、細かいごみを取り除く最初沈殿池、微生物の力を利用して汚れを取り除く反応タンク、きれいになった水を川へ流す接触タンク、施設内のすべての設備の監視を行う中央操作室……どのように汚水処理が行われているのか、その工程を巡りながら、ところどころに展示された作品を鑑賞していく。

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 沈砂池棟には、レンガブロックが鎮座している。表面には排せつ物を意味する「HUMAN POO88%」の刻印。かつて水再生センターでは、汚泥の焼却灰を原料として「ハマレンガ」を製造していた。かすかに異臭が漂う中に、ぽつんと置かれたレンガのオブジェは、廃棄物と資源、清潔と不潔、価値と無価値といった二項対立を無効化する。

 施設で処理した再生水を利用したミニ水族館では、ガラスの彫刻が展示される。外側からは巻き貝、あるいは人間の臓器のようにも見え、内側をのぞき込めば、ギリシャ神話に登場する怪物メデューサが現れる。ガラスは「固体」と思われがちだが、私たちの感覚では捉えきれない速度で分子が動き続けており、実は「液体」とする説もあるという。一見、関係のない二つのモチーフが、時間の尺度を変えてみると、もしかしたら関係性があるかもしれないという可能性を示す。

水槽の前に展示された作品。中をのぞけばメデューサに見える Photo:Akihiro Itagaki(Nacasa & Partners)

 作品にタイトルはない。示されるのは設置場所と素材のみ。「タイトルを入れると『個』になってしまう。何か一つが立つという状況をつくりたくなかった」と保良さん。下水も汚泥も微生物も作品もすべてが並列にその場に存在する。自分は自然の循環のどこに組み込まれているのだろう。そんな感慨を抱かせる。20日から22日まで。

2026年2月18日 毎日新聞・東京朝刊 掲載

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