昭和を代表する洋画家、小磯良平(1903~88年)の画業を振り返る「小磯良平展-幻の名作≪日本髪の娘≫」が神戸市立小磯記念美術館で開かれている。目玉は、国内では約90年ぶりに公開される油彩「日本髪の娘」(35年、韓国国立中央博物館蔵)だ。本作は35年に国内で展示され、朝鮮の李王家美術館が買い上げた。終戦後、中央博物館がコレクションを引き継いだが、厳しい反日感情などから展示されないまま、日本では行方が分からないとされていた。2008年に同館で展示した際、日本側にもその存在が知らされ、話題となった。日本への「里帰り」は初めて。
作品は、日本髪のかつらをつけた女性が、黒地に赤や黄色の流線が入った斬新なデザインの着物を着た姿を描いた100号の大作。伝統的な西洋画の技法を用いつつ、和装モダンを表現しており、岡泰正館長は「生粋の神戸人である小磯が(油彩で)和装を描いたらこれだけモダンに描ける、と示した作品」と評する。着物は大阪・高島屋の展示会に出品されたものを小磯が気に入り、自ら購入したとされ、本展では復刻品も並ぶ。
本作は第1回第二部会展に「踊り子」(35年)と共に出展された。モデルは神戸の実業家の娘、上田種子で、自身の意思を持つ知的な近代的女性としての存在感を放ち、30年代半ばの小磯作品にたびたび登場する。本展では両作品が90年の時を経てそろう。

また、小磯の画業の転機となった時期の作品としても重要だ。第二部会展は、日本が戦時体制に向かう中、当時の文部相による「帝展」改革に「芸術の統制だ」として反発した画家らが結成した在野の団体で、小磯も参加した。さらに翌年、小磯は猪熊弦一郎らと共に「新制作派協会」を結成し、官展には関与せず、在野で活動することを宣言。以降、新制作展を主な発表の場とした。本展では新制作展に出展された「化粧」(36年)や「裸婦」(37年)も並ぶ。戦争の足音が近づく中、芸術の自由を希求した当時の熱を感じることができる。
油彩画やデッサンなど140点。3月22日まで。4月18日~6月21日、福岡市美術館に巡回する。
2026年1月19日 毎日新聞・東京夕刊 掲載