トニー・アウスラー「Obscura(Maebashi version)」(14/25年)の展示=小松やしほ撮影

【ART】
現代の「ゴースト」が語るもの
20人出品、企画展 前橋

文:小松やしほ(毎日新聞記者)

現代美術

 戦争、分断、テクノロジーの脅威、環境破壊。現代社会は先の見えない、不確定な事柄に満ちている。前橋市のアーツ前橋で開催中の「ゴースト 見えないものが見えるとき」は、不可視であいまいなものをゴースト(亡霊)と定義し、絵画をはじめ彫刻、写真、映像、インスタレーションといった現代美術の多彩な表現で映し出す。

 古いレコードジャケットをほうふつさせる外国の街並み。シリア出身のハラーイル・サルキシアンさんの作品「処刑広場」(2008年)は一見、何の変哲もない、都市の風景写真に見える。だが、そこに写っているのは、作品名が示す通り、時の政府により公開処刑が行われた場所だ。撮影した時間も実際の処刑の時に合わせたという。凄惨(せいさん)な処刑の記憶は目に見えなくとも、街に残る。人影もなく、しんと静まりかえった街角のどこかに、亡霊のようにひっそりとたたずんでいるのかもしれない。

 新平誠洙(にいひらせいしゅ)さんは制作に生成AIを用いた。何枚もの肖像画を学習させ、新しい肖像画の生成を試みる。その生成途中でAIを止め、生み出された画像を油彩で描き直した。輪郭は揺らぎ、顔の造作も定かではない。人の姿になりきっていない異形の「肖像画」はゴーストそのもの。生成AIが、アーティストに成り代わり元のイメージをつくり上げた〝ゴーストペインター〟であるというのも示唆的である。生成AIの存在もゴースト的。便利だが、フェイクで人を混乱させもする。

新平誠洙「Phantom Paint」(2024~25年)の展示風景=小松やしほ撮影

 薄暗い展示室に浮かぶ九つの大きな目玉。米ニューヨーク生まれのトニー・アウスラーさんの「Obscura (Maebashi version)」(14/25年)は不気味でありながら、どこかコミカルでもある。鑑賞者がのぞき込めば、大目玉の瞳に映るのは、目玉を見つめる自分の姿。本当に見ているのはどっち?

 20人の作家がそれぞれの視点から映し出したゴーストは、私たちに見えない、あるいは見ようとしないものを浮き彫りにし、警鐘を鳴らしているようでもある。21日まで。

2025年12月8日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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