◇衣服と交流、広がる世界
昭和の趣が残る大阪市西成区の山王地域を拠点に、地元の住民らと美術家の西尾美也(よしなり)・東京芸術大准教授が展開するファッションブランド「NISHINARI YOSHIO」のショーが10月、同区の山王集会所で開かれた。2018年のブランド誕生以来、展示販売会などは各地で実施しているがショーは初めて。
ブランドは、衣服とコミュニケーションの関係性を探ってきた西尾さんが、地域密着型のアートプロジェクトを基に開発した。核となるメンバーは地域の高齢女性5人だ。かつてタンス店だった建物を改築した「kioku手芸館『たんす』」に週2日集い、西尾さんからの「自分の人生を表す最後の3着」や「身近な人への思いやり」といった「お題」を基にデザインを考える。提案するのは「日常を生きるための服」。女性たちの「発想の飛躍」や、西尾さんが考えるイメージとのズレが唯一無二のデザインにつながるという。
ショーでは、試作品も含めた約80着を22~94歳のモデル23人が披露。モデルにはメンバーや住民のほか、福祉施設の利用者も参加した。
文字が刺しゅうされたワンピースやジャケットは、その服にまつわるエピソードを聞き取り、短い文章で表現したもの。いくつものカバンを組み合わせた「カバンジャケット」は、西尾さんの「お題」に応え、メンバーの中田久江さん(90)が考案し、商品化もされた。外出のたびに行き先によって違うカバンを用意するのが大変だとこぼした知人の言葉から、「それぞれのカバンを洋服として身につけたらどうか」と思いついたという。
活動にはここ数年、ベトナムや中国、韓国などの留学生や外国人居住者たちも加わっている。今後は福祉施設での出張制作も考えているという。西尾さんは「一針でも参加できるし、新しい価値を作っていける。誰もが輝ける場として地域に広げていきたい」と語る。
2025年11月10日 毎日新聞・東京夕刊 掲載