通路に置かれた「白一色の飛び出す子どものシルエット」にはドキリとさせられる=小松やしほ撮影

 すみだ水族館(東京・押上)のサインデザインや、2021年東京オリンピックのスポーツピクトグラムなどを手がけたグラフィックデザイナー、廣村正彰さんの展覧会「デザインの仮説と仮設 廣村正彰+」が東京都江東区のGALLERY A4(ギャラリーエークワッド)で開かれている。デザインの「仮説」と「仮設」をテーマに、多岐にわたる仕事を総覧し、その思考をたどる。

 廣村さんは1954年生まれ。大学卒業後、田中一光(30~2002年)に師事。88年に独立し、廣村デザイン事務所を設立。グラフィックデザインを軸に、さまざまなアートディレクションやサイン計画、ブランディングなどを手がけている。

 本展は、記憶と痕跡▽字と美▽シルエット▽矢印▽仮設的--の5章構成。章ごとに、本展のため試みた実験的な作品「スタディ」と、実際に手掛けた仕事の実例「プロジェクト」を、60点を超えるバナー(垂れ幕)で紹介する。

 デザインは「どう共感を得られるかが大事であり、多くの人に共通の意識や記憶が含まれることで、そのデザインが届く」と廣村さんは言う。共通の記憶や残してきた痕跡を生かしたのが「三菱鉛筆の工場」のスタディ。門扉に大きな鉛筆の看板を設置したり、ちびた鉛筆を生かして、社内行事を一覧できるコーナーや矢印のサインを設けたり。福岡・天神ロフトの「ロフトラ」では、地域の持ち味を出したいと、福岡県の伝統工芸、博多張り子をヒントにした。

 運転中に視界に入るとハッとする「飛び出し坊や」。派手な色よりも「シルエット」が鍵であり、それなら形だけでも注意喚起になるのではないか。そんな仮説から生まれたのが「白一色の飛び出す子どものシルエット」。横須賀美術館の人型サインは「人が案内してくれたら感じがよさそう」と発想したという。今では「よこすかくん」という愛称がついている。

 展覧会名には、仮説を形にするのがデザインであり、更新や変化を前提とした仮設的な発想もデザインの一つのあり方ではないか、との思いを込めたという。デザインの可能性について考えさせる。16日まで。

2025年10月8日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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