
◇「蘭奢待」「螺鈿紫檀五絃琵琶」など再現
聖武天皇の遺愛品などの宝物を伝える奈良・正倉院の世界を、宝物そのものではなく最新技術を使った仕掛けで味わう特別展「正倉院 THE SHOW」が大阪歴史博物館(大阪市中央区)で開かれている。名香と名高い「黄熟香」(通称「蘭奢待」)の香りを再現するなど、「体感」で楽しむことに主眼を置いた。
蘭奢待は「沈香」と呼ばれる種類の香木。正倉院を代表する宝物の一つとして知られ、織田信長や明治天皇が切り取った跡が残る。宮内庁正倉院事務所は2024年度から、香料会社の高砂香料工業(東京都)と協力して香りの再現計画を進めてきた。脱落片を加熱して成分を分析したり、調香師が実際に嗅いだりしてレシピを作成し、天然香料のラブダナムなどを使って再現した。同社広報室の鈴木隆さんは「ジンコウの甘さやフルーティーさだけでなく、アンバーグリス竜涎香)やレザー(皮革)のような特徴を感じた」と表現する。会場に置かれたガラスドームで来場者も体験できる。
幅約20㍍、高さ約4㍍の大スクリーンでは、高精細3Dデジタルデータを用いた映像を上映。「螺鈿紫檀五絃琵琶」などを微細な質感まで再現して大きく映し出し、中に入り込んだような「没入感」を演出する。正倉院事務所が手がけた宝物の再現模造品も、音楽や照明と組み合わせ、新たな表情を見せる。
現代アーティストが宝物からインスピレーションを受けた作品の展示も。アーティストでデザイナーとしても活動する篠原ともえさんは、ペルシャ風の水差し「漆胡瓶」のイメージをドレスに仕立てた。篠原さんは「圧倒的な存在感に魅了された。制作中、奈良時代の職人さんたちと会話しているような不思議な瞬間が何度もあった」と語る。展覧会について「手仕事の価値や正倉院の魅力を一人でも多くの方に感じていただく場になるのでは」と期待した。
8月24日まで。火曜休館(8月12日は開館)。9月20日から東京・上野の森美術館に巡回する。
2025年6月30日 毎日新聞・東京夕刊 掲載