
◇社会の変革、促すドレス
ファッションやアートを通じて社会課題に向き合うデザイナー、幾田桃子さんをテーマにした特別展「改善美 美で社会を変革する」が、大阪大谷大学博物館(大阪府富田林市)で開かれている。同大で4月、「宗教文化研究センター」が創設されたことを記念し、分野を超えた活動に仏教の視点から光を当てる。企画した副センター長の岩田真美教授は「対立ではなく、人やものをつなぐことで社会を変えようとする幾田さんの姿勢から、私たちにも何ができるかを考えるきっかけになれば」と期待している。22日まで。
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幾田さんは1976年、埼玉県生まれ。米・南カリフォルニア大在学中にファッション業界が地球環境にかけている負荷の大きさを知り、古着や廃棄衣料を再利用した子供服を製作した。2003年には都内で「セールをしない」「在庫消化率99%、ゴミを増やさない」などの理念を掲げた店舗を開くなど、注目を集めやすい「美」を活用して社会の「改善」を目指す取り組みを続けている。
浄土真宗本願寺派の僧侶でもある岩田教授は、前職の龍谷大ジェンダーと宗教研究センター長を務めていた23年に幾田さんと知り合った。その考え方が仏教にも通じると感じ、学生たちとジェンダー平等について語り合う講演会や、宗派の本山・西本願寺(京都市下京区)の国宝建造物である書院での撮影会を企画するなどした。
展示では、撮影会で幾田さんが製作、着用した「ジェンダー平等ドレス」など約30点を紹介。このドレスは「阿弥陀経」の内容からインスピレーションを得たといい、雲の中にハスの花が浮かぶイメージ。赤、青、白などそれぞれの色で光り輝くハスのように「自分の色そのままが美しい」という多様性尊重への願いが表現されているという。
「りぼんドレス」は大切なギフトを包むリボンのデザインで、性被害を受けた女性たちに向け「どんなことがあろうとも、あなたの存在は素晴らしい」というメッセージを込めたという。岩田教授は「そのままで漏らさず救うという、阿弥陀如来の慈悲を思い出させる」と語る。

「Anti Racism」の文字がデザインされた「人種差別反対リング」は、20年のNHK紅白歌合戦で司会の二階堂ふみさんが着用したことで注目された。
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岩田教授は、幾田さんがトヨタ自動車や竹中工務店といった企業とも積極的にコラボレーションしていることにも注目する。「さまざまな人を巻き込み、連携していくことで効果的に社会を変えようとしている」。社会課題への取り組みは、ともすると二項対立の構図になりがちだ。「戦って勝ち得るものもあるが、分断や差異を乗り越えていくのが仏教の考え方でもある。課題解決への新たな視点を与えてくれるのではないか」と語る。
入館無料。日曜休館(22日は開館)。
2025年6月11日 毎日新聞・東京夕刊 掲載