「屋根の魚」(2025年、右)や映像作品「大阪城のおもひで」(同、左)の展示風景
「屋根の魚」(2025年、右)や映像作品「大阪城のおもひで」(同、左)の展示風景

【Topics】
黒田大スケさんが個展
彫刻とは、大阪芸術とは 映像と造形、組み合わせ

文:山田夢留(毎日新聞記者)

インスタレーション

彫刻

 黒いスクリーンに浮かぶシャチとトラとアヒルの顔が、大阪城天守閣のしゃちほこについてボソボソと語り合っている。脇には大きくてあやふやなしゃちほこの立体作品。近づいてみると、貼られた金属フィルムの間から青い地が見える。

 「彫刻とは何か」を問いながら、ユニークな表現を手がける黒田大スケさんの個展「黒田大スケ:天幕のためのプラクティス」が大阪府立江之子島文化芸術創造センター(大阪市)で開かれている。テーマは大阪の公共彫刻。調査をもとにしたユーモラスでシニカルな映像と、危うさをはらむ造形からは、「大阪の芸術とは」という問いが浮かぶ。

 黒田さんは1982年、京都府生まれ。彫刻を学ぶ中で、近代彫刻がよって立つ根拠や戦時の彫刻のあり方などに疑問を抱き、独自のアプローチで美術史を表現してきた。映像作品は、黒田さんがリサーチした実在の彫刻家になりきって、即興でしゃべるというもの。自らの口の周りに動物の絵を描くスタイルも、語る内容も、脱力感にあふれふざけているようにも見えるが、歴史の中で見過ごされてきた矛盾を時に鋭く突く。

 本展では9人の彫刻家をピックアップ。7本の映像と関連する造形を組み合わせたインスタレーションを展開する。大阪城のしゃちほこは、伝統的な造形と近代彫刻の概念がぶつかった面白い例だと感じ、取り上げたという。一方、しゃちほこの立体作品はパイプ椅子にブルーシートをかけて作られている。2年前に発覚した、大阪府が所蔵する美術品にブルーシートをかけ、地下駐車場に放置していたという問題を想起させる。

 「大都市としての豊かさも面白さもあるけど、そういうことが顧みられたり大事にされたりしないところがある」。街中の彫刻をつぶさに見て回り、調査した黒田さんが「大阪」に抱いた感想だ。「芸術不毛の地」を断罪するでも嘆くでも、逆に擁護するでもなく向き合った表現は、見る者それぞれの思索を促す。6月1日まで。

2025年5月19日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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